私は2年前まで看護師をしており、今は派遣事務の仕事に就いています。看護師時代は17、18時間の長時間勤務が当たり前でした。
ある日の二交代勤務中、朝7時半に病院の通用口を通り抜けましたが、院内は異様に静かでした。通常ならば朝食の準備で賑わうはずの時間帯に人の気配がまるで感じられませんでした。
更衣室に向かう道すがら、同僚の姿も見えず、携帯で連絡を試みても通じません。取りあえず、ステーションへ向かうことにしましたが、その途中で職員も患者も一人も見かけませんでした。異常な事態に恐怖を感じ、誰かを探そうとしましたが、恐ろしさのあまり動けませんでした。
内線電話を取り上げると、発信前のトーン音さえ聞こえませんでした。パニックになった私は、携帯を落とし、それを拾い上げると実家の番号が表示されていました。すぐにダイヤルし、母との会話が始まりました。しかし、母からは「病院から連絡があったが、時間になっても来ないから心配している」と言われました。
その瞬間、力が抜けてしまいました。そして、携帯を落とした場所にバッテリーが落ちていることに気付きました。バッテリーが無いのに、どうやって母と話していたのか疑問に思いました。
恐怖で逃げ出し、通用口の近くで倒れていたところを同僚に発見されました。目覚めたときはいつもの賑やかな職場でした。その後、その日に何が起こったのか確たる証拠もなく、自分の見たことが現実だったのかさえ確信が持てませんでした。見たはずの大きな鏡は実は存在しなかったのです。