俺に父は居ない。
俺と双子の妹が生まれるずっと前に癌に罹り、俺たち兄妹が生まれて暫くしてから亡くなったらしい。
※
俺たち兄妹が小学生になったある日。
学校から帰ってのんびりしている時に隣家で火事が起き、あっという間に俺たちの家にも火が燃え移った。
母は仕事で居なかった。
妹の手を取り部屋から脱出しようしたが、ドアノブが火の熱によって溶かされ出られそうにない(この時、俺は右手を火傷した)。
部屋は二階だし、窓から脱出しようにも出来る訳がない。
俺は助けが来るまで、熱から妹を守るため布団で妹を包み必死に抱き締めた。
ただ、俺も妹も限界に近い…。その時だった。誰かが俺の体を包み込んだ。
俺たちは無事助かり、どういう経緯で家から脱出したかは覚えていない。
ただ微かに覚えているのは、グシャグシャ泣き顔の母。
それと、あの火事の中、
「手、痛いだろ…偉いぞ。男の手は愛する人を守るためにあるんだ」
という言葉と、ずっと誰かが抱き締めていてくれたこと。
確かその人は、坊主頭でちょっと垂れ目、左目の下には傷痕があった。
※
後々大きくなった俺たちに、母から父の手紙を貰った。
それと、俺たちが生まれて間もない頃だろう、家族写真が何枚か入っていた。
ありがちな展開だけどさ。写真の中で笑う父は、坊主頭でちょっと垂れ目、左目の下に傷痕があった。
薄くて誤字だらけの手紙は読むのがやっとで、手紙の最後にはこう書かれていた。
『男の手は愛する人を守るためにあるんだ。おばけになっても、俺は家族を守る』
俺に父は居ない。でも俺にとって父は偉大で、大切なことを教えててくれた。
妻と、もうすぐ生まれる子供をこの手で守って行くよ。あなたを見習って。