不思議な体験や洒落にならない怖い話まとめ – ミステリー

おっちゃんの幽霊

古いアパート

半年程前に起きた出来事。

今住んでいるアパートは所謂『出る』という噂のある訳あり物件。

しかし私は自他共に認める0感体質。恐怖より破格の家賃に惹かれ、一年前に入居した。

ある日、この部屋の台所の壁の一角に変な形の染みを見つけた。

人間を逆さまに吊るしたような形で、0感の私もこれは流石に気味が悪く、好きなアーティストの大きなポスター(畳一畳分くらいの大きさ)を貼って隠すことにした。

しかしこのポスターが金曜日の深夜0~1時頃になると、必ず左上がペロンと剥がれる。

何度画鋲を刺す場所を変えても、両面テープと画鋲を併用しても、金曜日の深夜0~1時頃になると必ず剥がれる。

そして剥がれてから小一時間くらいの間、怪音(ラップ音)が鳴り始め、台所の食器棚の引き出しが勝手に開いたり、棚の奥に入れてあるお椀などが床に落ちる、という怪現象が起こる。

毎週金曜日の夜に必ず起こるので、怖くなって『視える』という友人に視てもらったことがある。

そしたら「年配の男の人の霊が居る」と言われた。

ところがここが0感体質の凄さと言うのか、最初こそ怖かったものの、私は段々慣れて来た。

金曜日の深夜になる度に「あー、今日もおっちゃん来るかなー(笑)」と、怪現象を楽しむようになっていた。

それで件の半年前。その日は恒例の金曜日だった。

私は在宅の仕事をしている。

その夜も仕事が一段落し、ちょっと休憩するかと背伸びをした瞬間、腰に『ビシィ!!』と凄まじい激痛が走った。

床に倒れこみ、あまりの痛みに立つことが出来ず、机の上の携帯を取ることさえ出来ない。

そのうち激痛で身動きすら出来なくなり、声も出せず正に瀕死の状態になった。

どうしよう、どうしようとパニックになっていたら、外で救急車の音が聞こえ、玄関を開けて救急隊の人が駆け込んで来た。

そして私は病院へ運ばれた。診察の結果、椎間板ヘルニアだと判った。

搬送中はとても話が出来る状態ではなく、落ち着いてから救急隊の方に事情を聞かれた。

「お父さんと同居されているんですか?」と尋ねられたので、

「いえ、私は一人暮らしです」と答えた。

そしたら隊員の方は怪訝な表情で、

「おかしいですね、確か年配の男性の声で119番通報があったんですけど…」と首を傾げた。

更に聞いたら、玄関には鍵もチェーンも掛かっていなかったという。

いや、その日は仕事の打ち合わせから帰宅した後、間違いなく鍵とチェーンを掛けた。

その後は外出していないし、御手洗いに立った時も確かに掛かっているのを見ている。

二ヶ月の入院の後、退院して部屋に戻った。

やはりポスターは左上が剥がれていた。

私はカップ酒を買って来て、おつまみと共にその壁の前に供えた。

そして「おっちゃん、ありがとうな。おかげで助かったわ」と言って手を合わせた。

以後、怪現象は一切起こらなくなり、ポスターが剥がれることもなくなった。

一度ポスターを外してみたら、人の形の染みは薄くなっており、今では殆ど消えてしまった。

おっちゃんが誰だったのかは遂に判らなかったけど、今も感謝している。

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