若干長いんだけど、もう見えなくなった彼女の心霊的な話。
中学の頃は不良だった。
身も心も荒んでいて、周りは受験を意識していた中学3年生の夏。
他校でやらかしてしまい、色々とお咎めを受けた。
俺の更生プログラムみたいなものが組まれ、その一環で市の図書館の掃除などを任せられた。
寂れた図書館で、もうあと少しで無くなる予定の図書館。
切り盛りしているのが市の職員と数人のおばちゃん。
来ている人も殆ど居らず、本当に暇だった。
俺は学習室のテラスでサボって煙草。
『早く終わらねーかなー』なんて毎日考えていた。
※
そこで知り合ったのが彼女。
「そこで煙草吸うな」
と説教を始めた彼女。
むかついて彼女の制服目掛けて煙草を投げてしまい、制服が煙草で燃えてしまい穴が開いてしまった。
彼女は泣きながら家に帰ってしまった。
流石にやり過ぎたと思い、職員に身元を聞き、家まで謝りに行った。
そんな訳で知り合いになった。
毎日図書館の管理をする俺と、毎日そこに来る彼女という間柄のおかげで、冬には付き合い始めた。
付き合い始めたおかげで俺は更正し、高校に行くため勉強を教えてもらったりもした。
俺は所謂霊を視る力というのが若干あり、そのせいか時折、彼女が薄く見えることがあった。
『大丈夫なのか?』と心配だったが、それ以上に彼女という人間が不思議だった。
ちょくちょく家にお邪魔させてもらったのだが、ツタなどが絡まっているような廃墟に近い家で、その集落一帯は空港の拡大に向けて立ち退きが決まっていた。
更に彼女は何かの病気だったらしく、大量の薬を服用していた。
色々な事情があったらしく、俺はあまり相手の事情に踏み込むことはしない。
※
別れは突然だった。
彼女の家にお邪魔していたら親父さんが帰って来て、
「中学生なのに恋愛などするな!」
と俺を殴って追い返した。
「受験を控えた娘にちょっかいを出すな」
と言われ、それ以来会う事が出来なくなった。
※
彼女がどんな心境だったのかも分からないが、俺は受験を終え、今なら少しくらい会っても良いのではないかと思い、彼女の家に電話をした。
「おかけになった番号は現在使われておりません…」
「えっ? そんな!」
急いで彼女の家に向かった。
そこに彼女の家は無かった。
取り壊された跡で、俺は立ち尽くして泣き叫んだ。
俺はその後、出来る限り彼女の行方を捜したが、彼女が立ち退く前に高校の進学を断念し、入院したという噂を聞いただけだった。
※
それから暫くして、彼女の夢を見るようになった。
俺が彼女に一生懸命その日あったことを喋りかける夢。
彼女は花畑でにっこりと微笑みながら話を聞く。
俺「今日さ、体育祭があってさ…」
彼女「…」
俺「俺、大学に行きたいんだよ」
彼女「…」
彼女の夢を見ると必ず穏やかな気分になって、起きると泣いていた。
※
次第に彼女は影が薄れて行った。
最後にその夢を見たのは大学を卒業する直前。
俺「俺さ…就職決まって、ついに地元を出る事になったよ」
彼女「お…め…で…とう…」
ゆっくりお辞儀して、彼女は遠くに行ってしまった。
※
それ以来、彼女の夢を見ることも、彼女の顔も思い出せなくなった。
その夢を見た翌朝、急いで彼女と一緒に撮った写真や日記帳などを探したのだけど、ついに出てくることはなかった。
もう今では顔も思い出せないけど、一言くらい「ありがとう」を言わせて欲しかったな…と思う。