俺は出張マッサージを生業にしているのだけど、十何年か前、名前を言えば誰でも知っている会社の会長さんのお宅に仕事でお伺いした時の事。
いつものように呼び鈴を押して返事を待っていたところ、着物姿のお手伝いさんが門から出て来た。
そして手招きをして
「こちらの居間へどうぞ」
と居間に通され、ソファに腰掛けていた。
するとそこの奥様が来て、驚いた様子で
「どうやって家に入ったの?」
と聞いてきたので、
「お手伝いさんに案内されましたが」
と言ったら、
「家にはお手伝いは居ない」
と言う。
こういう感じの人でしたよと説明した後、奥様がいきなり
「ああ…また出たのね~」
どうやら以前雇っていた方だったらしく、亡くなっても尽くしているお手伝いさんに感動してしまった。
※
後日談
あの一件の後、そのお宅の旦那さんが奥様からお手伝いさんの話を聞き、
「まだ逝ってないのか、解った」
と言い、お手伝いさんが眠る墓地に赴き、墓前に線香と花を添えてから、
「もう向うに逝きなさい。お前は充分に働いてくれたじゃないか」
と言葉を掛け、墓地を後にしたのでした。
次の日の夜中、旦那さんの枕元にお手伝いさんが正座して、
「お坊ちゃま、お世話になりました。これからアチラに参ります」
と頭を下げて消えたそうです。
その話を後で奥様から伺い、
「もう出ませんよ」
と言われた時は、一抹の寂しさを感じてしまいました。
死後の世界があるのかどうかは分からないけど、人の想いはこの世に残るものですね。