母が二月に亡くなったんだよね。
でもなかなか俺の夢には出て来てくれないんだ。こんなに逢いたいのに…。
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母が病気になってさ、本当は近くに居てやらないといけないのに、自分で希望を出して海外に転勤しちゃったりして、本当に申し訳ないと思っている。
でもね、亡くなる前はさ、体調が悪い時期でも、俺が実家に帰る時はいつも元気なっていた。
元気に振る舞おうとかそういうのではなく、本当に体調が良くなっていた。
亡くなる直前にもさ、危ないかも知れないから急いで帰って来いと家族に言われて、実家に帰ったら嘘のように元気になっちゃって。
だから俺、大丈夫だと思って二日だけ居て戻ったんだ。
最後も笑って、握手して、頑張るよと言ってくれて…。
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そしたら翌日の午前、実家から職場に電話が入った。
「もうだめかも…」
でもその日は忙しくてね、翌日の飛行機で帰ろうと思って、予約を入れようと電話したら満席だった(一日一便のみ)。
当日の二時間後の便なら取れることになって、時間ぎりぎり、無理矢理それに乗って帰ることが出来た。
もちろん機上では『俺が帰れば元気になる!』と思い続けていたよ。
でもダメだった。最後の時の母の目は一生忘れない…。
話せなくなっても、じっと俺たちを見つめていたあの瞳…。
海外に居て、母の死に目に会うことが出来たのは、母が待っていてくれたからだと思う。
いつものように元気になれなかった代わりに。
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その後、大分落ち着いたよ。
でもさ、最初にも書いたように、俺の夢には出て来てくれないんだよね。
妹の夢には毎日のように出て来るのに…。
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そんなある日、妹から電話があったんだ。
「すごいよ…」
ここのところ夢にまつわる不思議なことが続いている、と言うのだ。
ある夢では、ピアノのある部屋で母親と妹が二人居る場面で、母が無言でピアノを指差すんだって。
朝起きてピアノを見ると、埃がたっぷり溜まっていた。
「ちゃんと掃除しなさいってことなんだろね」
と二人で笑った。
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また、月命日で妹が写真の前にご飯を供えて眠ったら、夢で母と妹とばあちゃん(既に他界)が台所でご飯を作っている場面になり、母が妹に
「箸取って」
と、ぼそっと言ったんだって。
起きてすぐご飯の前に箸を供えたらしい。
「よっぽど食べたかったんだろうな」
と二人で笑った。
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最近見た夢は、母と俺と妹と三人で納戸の中を掃除している場面で、母が俺に
「白いタンスを拭いて」
と言ったんだけど、俺が
「イヤ」
と拒否したので、妹が
「○○、じゃあ、あんたが拭いて」
と言われ、白いタンスを拭いたという夢。
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翌日、妹はどうしても納戸の白いタンスが気になったんだって。
納戸に入り、白いタンスを下から開けて中を調べてみたら、その中から父と俺と妹、そして俺の妻に宛てた遺書が出て来た。
「遺書があることを伝えたかったんだね」
と二人で泣いた。