ある日のこと。
「拾った子猫を飼ってもらえないか?」
と小学生くらいの女の子とその母親が来た。
商売柄と言って良いのか分からないが、教会にはこの手の相談がよく来る。
残念ながら拾って来る小動物全てを飼っていたら見事なワンニャンランドが出来上がってしまうので、貰い手を一緒に探すという形で一時的に預かるようにしていた。
命を大切にするのはとても大切なことだから、親父も母も嫌な顔一つせずに里親探しを手伝った。俺は専らインターネット部隊として里親探しを頑張った。
猫は去勢されているかどうかや、予防接種を受けているかなども里親が見つかる重要な要素でもあるので、親父は貧乏だったが自腹を切って払う時もあった。
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俺は早速、インターネットの里親募集に写真を載せた。
親父と母親はいつものペットショップとパン屋さんに写真を貼ってもらえるように頼みに行った。
猫を拾った女の子は、学校の帰りにいつも猫に会いに来ていた。子猫を中心とした温かい人情の輪のようなものを感じていた。
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二週間ほど経った頃にインターネットで里親が見つかり、向こうから車で引き取りに来てくれることになった。
おまけに「予防接種や去勢はこちらで致します」と言ってくれて、とても大助かりだった。
正直、我が家はみなさんのお裾分けで食い繋いでいるような貧乏な家だからだ。
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子猫の受け渡しの日、親父はたまたま別の教会に出張に行ってしまっていた。
俺と母と女の子で里親になってくれる山田さん(仮名)に余った餌や匂いの付いた毛布などを渡した。
子猫が居なくなり、ほっとしたような寂しいような夕食時に親父は帰って来た。
親父も子猫が居なくなったことを少し寂しいと感じているようだ。
その時、親父がケモノの臭いがすると言って鼻をくんくんしながら部屋を徘徊した。
夜に親父が「猫が居る」と言って家の中と外を探し始めたが、もちろん居なかった。
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次の朝、親父が山田さんに連絡を取ろうとしたが、置いて行った連絡先は全く関係の無い電話番号だった。
俺は「インターネットに残っている情報から山田さんに連絡が取れないか?」と聞かれ、慌てて連絡をくれるようにメールをしてみた。
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次の日、メールの返事が来ていないことを親父に伝えると、親父は肩を落としながらこう言った。
「あの子猫、死んだかもしれん。申し訳ないことをした。可哀想なことをした」