小学生の頃、友人にMちゃんという子がいた。
Mちゃんの両親(特に母親)は宗教好きで、よく解らないけど色々やっていたようだった。
家に遊びに行くと、絵の得意だった自分に半紙を渡し、赤い墨で鶏の絵や人形の絵を描いてと言われたりした。
気持ち悪かったのが、ネズミ捕りにかかっていた白ネズミが可愛いかったので「出して触ってみたい」と言ったら、M母に止められて、いきなり「生理きてるの?」と聞かれた。
馬鹿正直に「まだです」と言ったら、「そう、ならいいけど。でも念のため触らないで。それ血を使わなきゃいけないから」と、子供心にヤバイ人だと感じた。
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MちゃんとM母に連れられて、宗教団体みたいな場所に連れて行かれたことがあった。
寂れた4階建てのアパートで、ベランダの鉄格子が錆付き、赤茶に変色していたのが印象に残っている。
同じく赤茶けた鉄のドアを開けて中に入ると、2DKくらいの普通の家だった。
でも大人が10人くらい居て、なぜか壁に向かって拝んでいたので、部屋はとても狭苦しかった。
何か異様な雰囲気がしたので帰りたくなったが、車で来ているため一人では帰れない。
隣のMちゃんを見ると、慣れているようでずかずかと中央のちゃぶ台の前に座り、出された麦茶を飲んでいた。私は仕方なくそれに習う事にした。
脇ではM母と、知らない男の人が楽しそうに談笑しており、周りではおばさんやらお兄さんやらが壁に向かって無言で祈っている。
その人たちは、入り口側とベランダ側を除いた両側の壁に向かって正座していた。
壁には朱色で謎の模様と読めない字が書かれたタペストリーが貼ってあって、鶏とネズミと蛇がいたような気がする。
それを見て『ああ、この間描かされたのはこれかあ』と思った。
M母も祈り始めたが、Mちゃんは置かれたマンガ本を読んでいた。
退屈になった私は何の気なしに部屋を見渡すと、至る所に子供が居るのに気が付いた(自分も子供だが、もっと小さい子。3歳くらいから5、6歳くらい)。
全部で何人いたかは覚えていないけど、台所の椅子の下と、天井の角に二人、あとはテレビ台の中に居たのは覚えている。
性別がよく分からないのも居たし、女の子っぽいのも居た。
特に怖かった記憶は無いけど、居心地悪い感じがしたので、マンガを読んでいるMちゃんに「なに? あの子達?」と言うと、「ああ、見えるんだ」と素っ気なく言われた。
異様な情景だったが、宗教だからかと変に納得して、「あの子達が神様?」と聞いたら、Mちゃんは「違うよ。何でいるのか分かんない。今日は多いね」と言って、詳しく教えてくれなかった。
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それから2時間くらい経ち、やっと帰る事になった。
靴を履きながら振り返ると、台所と居間の間のガラス戸にびっしりと子供の顔が張り付いている。
ガラス戸には木の格子がはまっていて、障子みたいな感じになっており、その一個一個に顔が一つ二つある感じ。海岸の岩のフジツボみたいだった。
ここに来て初めてぞっとした。
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その後、そのアパートに付いて行く事はなかったし、Mちゃんに聞いても、「わかんない、いつもそう」と言うだけ。
Mちゃんは引っ越して小学校を変わってしまったけど、車でなら行ける場所だったし、近所の高校に通ったので、社会人になった今もぽつぽつと交流している。
如何わしい宗教団体でも、何らかの不思議な力はあるのかなあと思った。