実際の体験談を書きます。友人(H)が自殺をした時の話。
Hとは高校時代からの仲で、凄く良い奴だった。
明るくて楽しい事も言えて、女子には人気が無かったが、男子には絶大なる人気を持っている奴だった。
高校卒業後に俺は東京の大学に行き、彼は地元の大学へ通ったため疎遠になり、連絡もあまり取らなくなった。
※
大学卒業後、俺は東京で就職をしたが、彼は引き篭もりになった。
彼が一切笑わなくなっていたことを、彼の葬式の時に彼の父親に聞いて、俺と友人達は驚いた。
大学で何かあったのか聞くと、3年生になったあたりから、段々と引き篭もり始めたとの事だった。
葬式には彼の大学時代の友人も来ていたため、俺や友人達は彼らに色々尋ねてみたが、彼らも判らなかった。
ただ、3年生の9月になってから、彼らをも避けるようになったという。
色々情報を集めていると、彼が大学2年生の2月頃に両親が別居をし、彼の母親が家を買い、彼と2人で住む事になったらしい。
ただ、これが原因とも思えなかった。
彼の両親の不仲は、彼が高校時代から嘆いていたし、本人が「早く離婚しないかなー」とさえ言っていたのだから。
※
それから3年が経ったある日、友人のSから電話があった。
『あのさー、すっごい変な事言うけど、信じてくれ』と、かなり神妙な感じで話を切り出す。
『あのね、Hから着信があった…』
冗談にも程がある。Hが死んでもう既に3年。
「お前、馬鹿にすんなよ?」
流石に怒って言う。
だけどSは、『いや、いや…。3年経ってるから、携帯は解約してるはずだよね?』と涙声。
『昨日、久しぶりにG(高校時代の友人)と会って飲みに行ったのよ。そしたら、23時頃に携帯が鳴って、見てみたらHから着信って…』
SはHの携帯番号を残して置こうと思い、削除していなかったらしい。もちろん俺も残していた。
ただ、それでも信じられなかった。
「お前、かけ直してみたか?」と聞いてみた。
『うん…。2回掛け直したけど、不思議な事に2回とも繋がった…』
この時はかなり背筋がゾッとした。
「え? 繋がった? ってことは、誰か出たって事?」
『いや、いや…』と、Sは泣き始めた。
何が起きたか分からなかったため、「何? どうした? おい?」と呼びかける事しかできなかった。
『お前さー、マジで信じてくれるかわからないけど。Gも次に電話してみたから知ってるよ。お前も確認してくれたら分かるけど…』
と、話を続けない。
「だから何だよ? 何があったのか言えよ」と、少々声を荒げて言う。
こんなこと聞かなきゃ良かった(内容は後で書きます)。
その後、『お前もHの携帯に電話してみろ…。嘘かどうかはすぐ分かる』と、Sはそれだけ言って電話を切った。
俺は怖くて電話できなかった。聞かなきゃ良かった、と思った。
※
何故聞かなきゃ良かったかというと、その夜に電話が鳴ったから。
着信はHの携帯から。Hは3年前に自殺している。棺の中でのお別れもした。
彼の母親が泣き狂いながら、「H!起きなさい!まだ、間に合うから!」と叫んでたのを思い出した。
その時にふと思った。
『もしかしたらこれは、彼の母親が子供が死んだ事が悲しくて受け止められずにやってる事なのでは?』と。
2回目の着信が鳴った時に、俺は思い切って出てみた。
「もしもし? Hのおばちゃん?」と、少し震えるような声で言うと、電話口で『ちがうよ』と、Hの声で言われて切られた。ぞくっとした。
低い男の声で、しかもHの声で返事があったから。
意味がさっぱり分からなかった。Hは死んだはず。
じゃあ、今のは誰だ?
何で俺らの電話番号を知っているのか。
何故、彼の携帯からの着信履歴が残っているのか。
30分近く震えながら考えたが答えは出てこない。
こっちから電話をしたいが、Sの話が忘れられず躊躇してしまう。
ただ、このままだと埒が明かない。
結局、電話をする事に。手は震え、心臓はどきどきしていた。
部屋中の電気をつけて、襖やドア、部屋のカーテンを閉めて、着信履歴からHの携帯に電話をしてみた。
やっぱりするべきじゃなかった。
※
受話器から聞こえるコールの音。1回、2回、3回…。
心臓がバクバクする。5回、6回、7回。プッ…。
留守番電話に切り替わる。
その瞬間『今から死にます』と、Hの声が流れ始める…。
『今から死にます。全部の音を残しておくよ。お前を呪ってやるから。
呪ってやるからなあああああああ。
ガああああああああああああああああああああああああああああああああああああああピーー…』
すぐに電話を切って放り投げた。Sの言った事は本当だった。
『電話したら、Hの声で…死ぬ前に録ったっぽいのが、留守電のボイスに入ってた…』
※
すぐにSに電話した。夜中だったが怖くて、怖すぎて、他人の迷惑まで気が回らなかった。
Sは寝ていたらしいが、Hの携帯から着信があったこと、誰か出た事、電話したら同じように声が流れた事を説明したら、Sは『どういうことなんだよ』とポツリと言い、その後は落ち着くまで付き合ってくれた。
しかし、恐怖は未だ続いた。
「なぁ、S、お前はどういう事だと思う? 俺は最初、Hの母親があ『プッ』やしいとおもってたんだけ『プッ』ど、どうも『プ』…やばい…キャッチが入った…」
怖くて誰からか見ることができない。
『おい、○○(俺の名前)。無視しろ…。俺と話しとけ』とSが言うので、そのまま話を続ける。
が、手から汗が吹き出てくる。耳下にある携帯が凄く異質なものに感じて、今すぐ投げ出したい。
『プッ プッ』とキャッチの音は続く。
数秒後、やっとキャッチの音が終わった。
すぐに電話を自分から離したかった俺は、Sに断りを入れ電話を切り放り投げて、部屋のテレビを点け、DVDに録っていたお笑いを見続けていた。
※
その日は朝まで起きていて、会社に行く気になれずに、上司に電話しようと携帯を取ると、着信履歴14件。
全てHの携帯から。最後の1件には留守電が入っていた。
朝になっていたためか少し強気になってきていた俺は、それを聞いてみた。
『ピーお前じゃないかあ。お前かあ? ははははははははははははははははははははははははは』
一気に寒気が来た。
『はははは』の笑い方が、Hの笑い方にそっくりだったから…。
すぐにSに連絡し、「Hの家に行って欲しい」と言うと、他の友人とGも一緒に行って確認してくれるとの事だったので、お願いをして連絡を待った。
※
夕方の16時頃に電話が鳴った。
Sの話をまとめると、
昼過ぎにSとGとM(高校時代の友人)はHの家に行くが、誰も出ない。
MがHの大学時代の友人と知り合いだったため連絡を取り、母親の家の住所(同じく地元)を聞き向かう事へ。
しかし、母親の家の住所にあるのは、蔦がグルグル巻きになっており、見た目はボロボロになった家だった。
買ってまだ10年も経っていないはずだが、手入れも全くされていない様子で、ガラスが割れている窓さえある。
人が住んでいる様子には見えなかったらしい。
Sが何度かチャイムを押すも、音は出ていない様子だったので、玄関を何度か叩き、高校時代の呼び方で「Hのおばちゃーん、Sですー。居ませんかー?」と呼びかけるも出てこない。
ダメかと思い帰ろうとした瞬間に、Sに電話が。着信はHから。
かなり恐怖を感じたらしく、逃げようとした瞬間、割れている窓から目が見えた。
Sは怖さから逃げようとしたが、腰を抜かしたらしい。
しかし、霊などに全く恐怖を感じないMは、「居るなら出てきてください。警察呼びますよ。これは犯罪ですよ」と言う。
見ていた人物はすぐに奥に。その後、Sの携帯に再度電話が。
ここでMは『Sにしか電話してこないのは、先程の人物がSの呼びかけでSの名前しか確認できなかったからではないか』と思い、ドアを開けて「おい!いい加減に出て来い!Hに対しても侮辱になるだろうが!!」と叫んだらしい。
そうすると、奥から携帯を持ったHが出てきたので、流石に驚いたらしい。
でも、Hだと思っていたのはHの弟で、泣きながら「お前らが兄貴もおかんも殺したんだ!」と殴りかかってきたらしい。
Gがすぐに取り押さえて話を聞いたところ、Hの母親はHが死んだ事を受け入れられずに、携帯などは解約しておらず、お金を払い続けていたらしい。
Hは自殺する際、遺書の代わりに MP3レコーダーに声を残しており、それを母親が見つけてしまった。
母親は毎日仕事にも行かずそれを聞き、最終的に気が狂い同じ部屋で自殺したらしい。
弟は母親の遺書に、
『Hは誰かを恨んで死んでいった。それを見つけれなかったのが悔しい』
と書かれていたのを見て、MP3から音源を取り、携帯の留守電のボイスに変えて全員に電話をかけるつもりだったらしい。
数人目にかけた俺が、電話に出て『Hのおばちゃん?』と言ったため、何故この電話が母と思ったのかと疑い、兄の恨みの相手は俺に違いないと思い、何度も電話をしたらしい。
Sが「俺は高校以後、あまり会えなくなっていた」旨を伝えると、理解してもらえたらしく、SとMとGが必死に「このようなことはしないように」と説得し、何とか解ってもらったとの事だった。
ただ、弟はS達が来た時はずっと2階から様子を見ていたので、下には誰も居なかったとの事。
S達が「誰か居たよ。俺ら見てたよ」と言うと、Hの弟は涙を流しながら「御祓いしてもらって、もう2人とも成仏してもらいます」と、大泣きしたとの事。
結局、Hの自殺の原因は不明ですが、今まで生きてきた中で一番の恐怖体験だったので書いてみました。
※
弟君は現在Sと大の仲良しになっており、一緒によく遊んでます。
俺にも一応、すぐに謝罪の電話をしてきました。もちろん許しました。
現在弟君は、母の家を御祓いしリフォームして、一人で住んでいます。
彼は元々は父方の家で暮らしてたようですが、父親の許しもあり、そうすることになったようです。
Hの自殺については、真相を知ろうとは思っていません。
これは、弟君も同意してくれています。
彼がそれまでに調べていた事によると、イジメが原因ではなさそうなのと、Hが精神的に病んでいたことを教えてくれました。
そこで、これ以上蒸し返すことや、本人が望む望まないに関係なく、他人を巻き込むのはやめようという事になりました。
Hが死ぬ2週間前にSに送ったメールで、『今度また皆で飲みにいこうぜ』との内容を見た弟君が、「兄はSさんたちを恨むはずが無いです」と納得。
Sが「お前の兄ちゃんは人を恨む奴じゃない」と言うと、大泣きしてたそうです。
弟君は、GやMや俺とも帰郷時に飲みに行ったりするようにはなりましたが、未だに誰も弟君の家には行っていません。
怖いのと、悲しい思いがするのが理由ですね。