高校生の時に某飲食チェーンでバイトしてたんだけど、その時の社員さんに聞いた話。
その社員さん(Aさん)は、中学生の時に親戚の叔父さんが経営する倉庫で、夏休みを利用してバイトすることになったらしい。
朝の9時から晩の19時までを日給4000円という事で。時給に直すとあほらしいが、中学生当時のAさんにとってこの日給は魅力的だった。
Aさんはそのお金の使い道を考え、わくわくしながら倉庫へ向かったらしい。
でも真夏の倉庫での作業はAさんの想像以上にハードで、昼を過ぎる頃には『叔父さんに謝って帰してもらおう』と思う程だった。
それでも、Aさんはその日給欲しさに必死で働いたらしい。そして、なんとか夕方まで働いた。
時計を見ると18時を少し過ぎた頃。中学生のAさんの体力はとっくに尽き果て、意識朦朧としながら働いていた。
叔父さんはその姿を見て、倉庫の二階で作業するようAに伝えた。
『二階で、空のダンボール箱を潰してくれればいいよ。19時まで待って今日は上がろう』
Aさんは、その叔父さんの言葉に救われた気持ちになった。
※
早速倉庫の二階へ上がってみた。
Aさんが思っていたより広く、小学校の体育館くらいの広さがあるように思えたらしい。
ちょうど夕陽が差し込んできており、大量の荷物で見通しの悪い倉庫がオレンジ色に染まっていた。
オレンジ色の夕陽の中で、Aさんはひたすら空のダンボール箱を潰していった。
その広い二階には、Aさん以外に人の気配が全くなく、楽な作業に没頭していった。Aさんは、そのうち時間が気になりだした。
『もしかしたら、もう19時を過ぎてるんやないだろうか?』
辺りを見渡しても、時計は無かった。急にそれまでの疲れが出てきて、Aさんは自分で潰したダンボール箱の山に座りこんだ。
『二階に居てるのは俺だけやし、少しくらいいいやろ』
そう思って顔を上げた瞬間、10メートル程先の倉庫から人が覗いてるのが見えた。半身になってこっちを見ている。
既に倉庫の中は薄暗くなっていて、顔までは見えない。でも、真っ白いワンピースの様な格好をしている事は分かった。
Aさんは慌ててダンボール箱を潰す作業を再開した。
『いつから見られてたんやろ? これでバイト代を下げられたら洒落になれへんわ』
Aさんはその人影を他の従業員だと思い、必死でダンボール箱を潰した。
『ちゃんと働いてるところを見てくれてるやろか?』
そう心配になり、Aさんは人影があった方をもう一度振り返ってみた。その瞬間、Aさんの全身に鳥肌が立った。
Aさんの2メートル程先から、さっきの白い人影が半身でAさんを覗いていた。
白い人影は髪が長く、倉庫の暗さもあってその表情は全く見えない。ただ、口だけが異様なまでに速く動いている。
何かを呟いているが、Aさんの位置からでは全く聞き取れない。
Aさんはショックと恐怖で全く身動きが取れなくなった。
白い人影が少しずつAさんの方へ近づいてくる。
Aさんはその人影の、異様に速く動く口から目を離せなくなった。
「ぶぶぶ……ごぶぶぶ…ごぶぶぶぶ……ぶぶぶぶ……」
Aさんの耳では全く聞き取れないほど早口で喋っている。
少しづつ近づいてくる。
それにつれてAさんにもその声が聞き取れてくるようになった。
「ぶぶぶ……けしてぬ……ごぶぶぶ……なわいわぬ……」
「てぃはや…けしてぬ……いんでは………しね………」
そこまで聞き取れた時に、Aさんは気を失ってしまった。叔父さんに起こされた時には、19時を少し過ぎた頃だったらしい。
その後、Aさんはなぜか色盲になってしまい(普通は中学生にもなって発症する事は無いらしい)、流石にトラウマになったらしく大学生になるまで誰にも話せなかったそうだ。