サイトアイコン 怖い話や不思議な体験、異世界に行った話まとめ – ミステリー

報道されない異常な事件

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1 名前:証人 ◆k77zBQp. 投稿日: 02/05/11 02:18

――俺は今、恐怖に震えている。

理不尽だ。何で俺が?

俺は関係ないのに。俺は通りかかっただけなのに。

俺は今年38歳。

この事件でクビになるまでは某ファーストフード店の店長をしていた。

その当時勤めていた店舗にそいつはいた。そいつを仮にAと呼ぶことにする。

Aはマネージャーとして配属されてきた25才のごく普通の男だった。

仕事もきちっとこなしバイト連中にも信頼されていた。

ファーストフードの店舗の運営は契約社員やアルバイトをいかにうまく使うかにかかっていると言っても過言ではない。

Aはバイトの扱いもうまく、俺は当初は優秀なのが配属になったなあ、と思っていた。

だがAには隠れた裏の顔があった。裏の顔があったと言うより、Aは異常者だった。

本物の異常者だった。また、Aは「ストーカー」だった。

頻繁に異動をさせられているのもしょっちゅうバイトの女のコと問題を起こすからだった。

だが、「ストーカー」などという行為はAの本当の恐ろしさから比べれば大したことではなかった。

ある日、俺はバイトの女のコたちがAの噂話をしているのを聞いた。

それはずばりAのストーカー行為の噂話だった。

被害者というか、のちに加害者になるわけだが、ストーカーをされていたのは高2のB子だった。

B子は見た目はごく普通の高校生だ。

うちの店舗は極端な茶髪や素行に問題のありそうなバイトは採用しないようにしている。

B子も見た目はごく普通だったが実は男性関係が結構派手だった。

B子の男友達は昔でいうチーマーとかギャングとかといった風体で、明らかに普通ではなかった。

俺が実際にその男たちを見たのは事件のときが初めてだったけれど。

俺の勤めている店舗は都内の郊外店でバックルームの裏側には小さな公園があった。

事件が起きたのはその公園だった。その日、AはB子に公園に呼び出されたらしかった。

AはB子に対して頻繁に電話やメールを繰返し、夜中に自宅に忍び込もうとしたり、休憩時間中に卑猥な行為をしようとしたりしていたらしい。事実はどうだったのか正確にはわからないが。

俺はその日、いつものように本社に個別連絡と在庫報告をし、そろそろ帰ろうとしていた。

バックルームの外にある物置に使わなくなった什器をしまおうとして公園の前を通ったとき、なにかざわついた雰囲気を感じた俺は、ふと木立に囲まれた噴水脇を覗きこんだ。

ほんの10メートルぐらい先に男が3人と女が1人いた。「やばい」とか「まずくねえ?」と言った声が聞こえた。

男が1人倒れていた。俺は緊張した。

俺はもともと気が弱く、その喧嘩のあとのような雰囲気が怖くて、見て見ぬふりをして通り過ぎようとした。

ふと女と目が合った。B子だった。俺はドキッとした。男たちも俺に気づいた。

B子と男たちはあっという間に走って逃げて行った。倒れている男だけが残されていた。

情けない話だが巻き込まれるのが怖かった。俺は見なかったことにしてその場を立ち去ろうとし、倒れている男に背を向けた。

直後俺は背後から呼びかけられた。

「店長」と。

倒れていたのはAだった。

俺は動揺しながら「A?Aなの?」と聞いた。そいつがAなのはわかっていたのだが。Aは横になったまま言った。

「切られちゃいました。切られちゃいました」

Aはズボンとパンツを膝まで下ろされ、下半身から大量に出血していた。

よく見ると下腹部をザックリと切られ、陰茎が今にもちぎれそうになっていた。

物凄い血の量と切り刻まれたAの陰茎を見て、気の小さい俺は心臓が飛び出すほど驚き、「ひいー」とか「きゃあー」とか意味のない悲鳴を上げながらペタッと地面に座りこんで、失禁してしまった。

俺は泣きながら「救急車ーっ」とか「お前しんじゃうよー」と叫んでいたが、実際は腰が抜けて動けなかった。

やっとの思いで店に戻った。店の電話で119番し、しどろもどろになりながら状況を説明した。

とにかくすぐ来てくれ、と伝え、膝がガクガクして歩けなかったので赤ん坊がハイハイするような感じで店を出て、公園に戻った。

Aは消えていた――。

俺はあっけにとられていた。つい今しがたの出来事は夢だったのかと自問した。

もちろん夢ではなかった。噴水脇には赤黒い血だまりが残っていた。俺は呆然と立ちすくんでいた。

大きなサイレンの音を鳴らしながら救急車が到着した。

俺は店の表側に着いた救急車のところに行き救急隊員を裏の公園まで連れていった。ものすごい数の野次馬が集まっていた。

俺は救急隊員に血だまりを指し示しながら事の顛末を必死に説明した。

俺が必死に説明をしている最中に警察官がかけつけ、その後6台もパトカーが到着し、あたりは騒然とした。

救急車は引き上げることになった。俺はパトカーに乗せられ所轄の警察署に連れて行かれた。そこであらためて顛末を説明した。

後日、本社の社員とともにAの履歴書やシフト表、その他関係書類を持って出頭することになった。

事件現場の公園や店の現場検証も行われた。

だが警察の出した結論は「事件性なし」だった。

つまり俺の「狂言」ということになった。俺は信じられなかった。

じゃあ、あの血はなんだ、と。俺をキチガイだと言うのか、と。

B子は出頭することもなく自宅で何度か事情を聞かれただけだという。

B子はバイトをやめた。学校もやめ、どこだかは伏せられているが関西地方の親戚のもとに身を寄せているらしい。

俺は1ヶ月後、店を解雇された。理由はもちろんこの事件のせいだ。

俺は不当解雇だと訴える気力すらなくしていた。ぼんやりとひきこもった毎日を送っていた。

5月8日──。

朝の5時にアパートのドアを叩く音がした。

俺は昼夜逆転した生活を送っていたので朝の5時といっても普通に起きてパソコンをしていた。

俺はこんな時間になんだろうと思い注意深くドアの覗き穴から相手を見た。

心臓が止まるかと思った。

あの事件以来行方不明になっていたAだった。俺は思わずドアを開けた。

Aが立っていた。だが俺は何も言えなかった。明らかに何かが変だった。

尋常じゃなかった。目つきがおかしい、とか素振りがおかしい、とかではないが、なんとなく、しかし確実におかしかった。

Aは言った。

「アンタガ、B子ヲ、ソソノカシタンダロウ?」

俺がAを目の前にして感じていた違和感が何なのかがわかった。

Aは普通の状態ではなくなっていた。

Aはさらに言った。

「オレハ、モウ、オトコデモ、オンナデモ、ナインダヨ」

俺は怖くなってとっさにドアを閉めようとした。

Aはドアに顔をはさむようにして叫んだ。

「アンタノ、セイダ」

「ツギハ、アンタダ」

俺は手の平でAの顔を押し返すようにして無理矢理ドアを閉めた。

ドアの向こうでもう一度Aが叫ぶのがはっきり聞こえた。

「ツギハ、アンタダ」

俺は恐怖で震えていた。

手の平にさっきのAの顔の感触が残っていた。ぬるりとした嫌な感触だった。

俺はドキドキしながらドアの覗き穴から外を見た。Aはいなかった。

俺は通報しようかと思ったが、あの公園事件を狂言扱いにした警察がまともに取り合ってくれるとは思えなかった。

俺は通報しなかった――。

ふと思った。Aの言葉。

「ツギハ、アンタダ」

「ツギ」

「次」

「次」ってなんだよ?

俺は怖くて眠れなくなっていた。

また覗き穴から外を見た。誰もいなかった。

俺は恐る恐るドアを開けてみた。やはり誰もいなかった。

ほっとした。と、その瞬間ギクッとした。

ドアに外から何かが貼ってあったからだ。

貼ってあったのは紙切れだった。

俺は何かが書いてあるその紙切れをはがすと急いでドアを閉めて部屋に入り、鍵をかけた。

そこであらためて紙切れを見た。細かい字で何かが書いてあった。

ホームページのアドレスのようだった。俺は怖くて何がなんだかわからなくなっていた。

水で顔を洗い「わあっ」と声を出してみた。そうするとなんとなく気持ちが落ち着いた。

俺は勇気を振り絞ってパソコンに向い、そのアドレスを入力した。

Aの作ったホームページだった。

俺はそのグロテスクな内容を忘れることができない。

まぎれもなくおぞましい犯罪の履歴だった。

そこにはB子のことが実名で延々と書き綴られていた。

B子の男友達のことも、俺のことも、公園事件のことも。

そしてそのホームページの最終章は「報復」というタイトルがついていた。

「報復」と名づけられたページを開くとB子の男友達3人の実名と顔写真が晒されていた。

そしてその顔写真の横に矢印がついており、矢印の横にあるのは何かの小瓶の画像だった。

3人の男たちの顔写真の横にはそれぞれ1つずつ小瓶の画像があり、その3つの小瓶1つ1つに何かが入っていた。

入っていたのはすべて切断された陰茎だった。それは作り物ではないと直感した。

俺は吐いた。吐きながら震えていた。

俺はあまりのグロテスクさにページを閉じようとした。

そこでふと気づいた。まだ下に画像があることを。

俺は下の画像を見た。

俺の顔写真だった。俺の小瓶はカラだった。

俺はAの言葉を思い出していた。

「ツギハ、アンタダ」

――俺は今、恐怖に震えている。

理不尽だ。何で俺が?

俺は関係ないのに。俺は通りかかっただけなのに。

2002年5月11日。午前2:27。

俺はまだ

無事だ。

おかしい。

絶対におかしい。

早く持って来てくれ。証拠のビデオテープを持って来てくれ。ビデオテープさえあれば警察も動いてくれる。

5月8日――。

俺はあのホームページを見たとき、もうAはダメだ。もう普通じゃない。一線を越えてしまったと思った。

俺は躊躇することなく警察に駆け込んだ。

俺は必死になって、Aに部屋に押し入れられそうになったことや、Aが犯行を告白するホームページの存在を訴えた。

だが、あの公園事件を狂言扱いしたときとまったく同じ対応だった。

担当の捜査員はそのホームページを見せてみなさいと言った。

俺は署内のパソコンを借り、そのアドレスを入力した。

「404 Not Found」

何度入力しても見つからない。おそらくAは、俺に見せた直後に消したかアドレスを変えたのだろう。

捜査員は面倒くさそうに言った。 「被害届も告訴状もなければ動けないんですよ」と。

人が大怪我をしているはずなのに…。

しかも性器を切断するような、異様なほど悪質な暴力事件なのに…。

警察は何もしてくれない。

俺は帰り道思った。

「どう考えても異常だ。どう考えても普通の犯罪じゃない」

普通じゃなくなった人間の異様なまでの執着心。Aは俺を諦めない。狂人の妄執だ。俺は本当の恐怖を感じた。

5月9日――。

俺は働きはじめた。

もちろん公園の事件で店をクビになったから、というのも理由だが、実際はひとりで部屋にいる恐怖に耐えきれなかったからだ。

俺は製本工場で製本ラインに刷本をのせるバイトをはじめた。

朝から晩まで無心で働いてるときだけ気がまぎれ、Aの恐怖を忘れることが出来たからだ。

何も考えない、単純作業に没頭する時間。

俺はそんな時間を静かに過ごしていた。

だが、バイトから部屋に帰ると何か変な感じがした。

ほんの一瞬だけ違和感を感じた。

5月10日――。

今日もまた、バイトから部屋に帰ると何かが変だった。

特に部屋の配置か何かが変わったわけでもない。変な臭いがするわけでもない。部屋の様子はまったく変わっていない。

だが、何かが確実に変だった。俺は直感的にわかった。

「Aだ!」

間違いない。Aだ!Aが何かやった!

俺は部屋の中を調べまくった。身体中から冷たい汗が噴き出していた。物を盗まれるとかなら怖くない。

だがAは常人に思いもつかない何か恐ろしいことをしたに違いない。

「何か恐ろしいこと」。

俺は魔法瓶の中身や冷蔵庫の食べ物、飲み物すべてを捨てた。

警察が何もしてくれないなら自分で自分を守るしかない。

だが、もちろん狂人と殺し合うような恐ろしい真似はできない。

ならば警察が動いてくれるような証拠を押さえるしかない。

Aは間違いなく俺の留守中に俺の部屋に忍び込んで何かやっている…。

証拠を掴んでやる。

5月11日――。

俺は秋葉原に行ってCCDカメラ一式を購入した。

自分の部屋にそれらを仕掛け、Aが俺のいない間に部屋に忍び込んでいる証拠を押さえてやる。

証拠さえあれば今度こそ警察が動いてくれる…。

俺はこの板にこのスレッドを立て、今まで起こった出来事を書き込んだ。

誰でもいいからこの話を聞いてほしかった。そうすることで気がまぎれると思ったのだ。

そして3時間テープを3倍速に設定し、翌朝バイトに向った。

5月12日――。

その日俺はバイトを終えると早々に部屋に戻り、CCDカメラの映像を再生してみた。

何も変わったことはなかった…。

固定されたカメラは全く動かない部屋の中の情景を延々と映し続けているだけだった…。

もしかしたら録画が終わったあとで忍び込んだのかもしれない。

翌日からはタイマーで録画開始時間を少しずつずらすようにした。

5月15日――。

開始時間を少しづつずらして録画するようになって3日が過ぎた。

朝から夜まで録画をしたことになる。結局何も映ってはいなかった。

その頃、俺は、もしかしたら俺が寝てる間に忍びこんでいるのでは、とも思うようになっていた。

もちろん、そんなことはいくらなんでもありえないと思っていたが…。

ノイローゼ寸前になっていた俺はそれでも自分の気を落ち着かせるため、夜寝ている間もカメラをまわすようになっていた。

そして寝るときには枕もとにバットとスタンガンを置いておくのも習慣になっていた。

もしかしたら俺の気のせいだったのかもしれない。

あのホームページを見たショックでナーバスになり過ぎていたのかもしれない。

Aを恐れるあまり猜疑心が強くなり過ぎていたのかもしれない。

だが気のせいではなかった。

Aは俺の陰茎を切りに来た!

5月16日、夜――。

それは突然だった。

寝ていた俺は何か妙な感じを身体に感じた。それでも寝ぼけていたのでしばらくはぼんやりしていた。

だが急に、ぱっと目が覚めた。覚めざるを得なかったのだ。

俺は身体を触られているのを感じた。夢じゃない。寝ぼけているわけでもない。

俺は恐怖とともに一気に目が覚めた。夢じゃない。夢じゃない。これは現実だ。枕もとのライトをつけた。

俺の下半身に覆い被さってる奴が顔をこっちに向けた!

Aだ!

俺は絶叫した。Aも絶叫した。Aは絶叫するとともに持っていた物を俺の下腹部にぶつけた。

下腹部がパッと熱くなった。俺はすぐわかった。

「刺された!ナイフで刺された!」

俺はパニックになりながらとっさに枕もとのバットを掴みAを殴りつけた。

だがAはバットを掴み返し、ベッドの上でバットの引っ張り合いになった。

俺は「ぁーぁーぁー」と泣き喚きながら左手でスタンガンを握り、Aの胸に押しつけてスイッチを入れた。

Aはのけぞるように後ろに倒れた。すぐ起きあがると無言で俺を睨みつけた。

俺はあまりのことに恐怖で一杯になりながら必死で睨み返していた。

しばらく微動だもせず無言で睨み合っていた。Aの息遣いだけが聞こえた。

と、突然Aはキイッと唸ると身体を翻し、脱兎のごとく部屋を逃げ出していった。

部屋に残された俺はただただ呆然とベッドの上に座り続けていた…。

どのくらい時間が経っただろうか、俺は下腹部のギリギリするような激痛に我に返った。

寝巻きとパンツを下ろしたとき、貧血を起こしそうなほどショックを受けた。

亀頭の真ん中から陰茎に縦に4センチメートルほど大きく裂けるような穴が空き、血にまみれた海綿体が飛び出ていた。

次々涌き出るような大量の出血と傷口のあまりの大きさ、深さに俺はまたパニックに陥った。

呂律がまわらなくなりながら必死で救急車を呼んだ。タオルとティッシュで傷口を押さえ、泣きながら救急車の到着を待っていた。

果てしなく長い時間待ったような気がしたが、実際は10分足らずで救急車が到着した。

俺は救急隊員に必死で状況を説明し陰茎の傷口を見せた。傷口を見せると同時に俺は気を失っていた…。

目が覚めたとき、縫合手術は終了していた。

腰全体をギブスのような包帯でグルグル巻きにされていた。俺は包帯から出ている排尿用の透明チューブを放心状態で見つめていた。

担当医は機能障害が残るかどうかは経過を見てみなければわからない、と事務的に告げた。

俺は、傷はかなりの重傷で一週間は絶対安静だ、という担当医の言葉をぼんやりと、ただぼんやりと聞いていた。

が、瞬間パッとあることを思い出して興奮した。

ビデオだ。

今日も寝る前にCCDカメラの録画をセットしていた。

Aの凶行は間違いなくビデオに映っているはずだ。今度こそ警察も動くはずだ。

だがふと思った。Aはあのまま逃げていったのだろうか?もしかしたら部屋に引き返しているかもしれない。

部屋に戻れば天井の隅にセットしたCCDカメラに気づくかもしれない。

俺はいても立ってもいられなくなった。Aより先に証拠のビデオを手に入れなければ!

俺はすぐ部屋に戻ろうと、ベッドから立ち上がろうとした。

が、下半身が動かなかった。動かないというより感覚がなかった。

麻酔だ。下半身全体に麻酔が効いていてまったく感覚がない。

俺は焦り、部屋を見回した。部屋には俺ともう1人の男性患者。怪我をして救急病院に運ばれてきた酔っ払いのようだ。

俺はその男のベッドの下のカゴにスーツの上着らしきものがあるのを見つけた。

俺はベッドから転がるように落ち、手だけで床を這ってそのカゴまで辿りつき上着をまさぐった。

あった。携帯だ。俺はファーストフード店時代の部下Cに電話し、俺の部屋に行ってくれと頼んだ。

俺の部屋のCCDカメラと接続してあるデッキの位置を説明し、とにかくビデオテープを回収してくれ、と頼んだ。

とにかく急いでくれ。そして気がおかしくなったAが潜んでいるかもしれないと。気をつけろ、と。

部下Cは奇妙な電話に訝しがりながらも、俺の尋常じゃない雰囲気を感じ取り、突然の依頼を引き受けてくれた。

俺は電話を切ると急に動いたせいか、貧血のように目がまわりそのまま気を失っていた。

5月17日。今日の朝――。

目が覚めると朝になっていた。

麻酔も切れ身体が動くようになった俺は、受付の公衆電話からCの携帯に電話をした。

Cは電話に出た。俺はほっと胸を撫で下ろした。

CはAと出くわすこともなく無事だった。証拠のビデオテープも回収してくれていた。

俺は、今俺がいる救急病院の場所を伝え、すぐそのテープを持って来てくれ、と伝えた。

Cは昨日からの俺のでたらめな依頼を引き受けてくれた。

俺は公園事件のときもホームページの件のときも、警察が動いてくれなかったことを思い出していた。

だが、今度は違う。今度は証拠のテープがある。

Aの犯行がはっきりと映っているビデオテープがある。

早くテープを持って来てくれ。今度こそ警察は動いてくれる。

俺は証拠のテープが届き次第、警察を呼ぼうと思っていた。

現在5月18日 午前00:07――。

おかしい。絶対におかしい。

最後にCと電話で話してから12時間以上経っている。

あれから何度電話してもCは電話に出ない。

おかしい。何かあったのか?

俺が運び込まれたのは救急施設のある大きな総合病院だ。

今、俺はジリジリした焦燥感に耐えられずに、こうやって長期入院患者の談話室にあるパソコンに向って気を紛らわせている。

ここに事件の経過を書き込むことで気を紛らわせている。

早くテープを持って来てくれ。救急病棟の受付は24時間、開いている。

早く受付に来てくれ。

582 名前:C ◆k77zBQp. 投稿日: 02/05/18 00:31

今、店長の部屋にいます。

店長のパソコンでここに書き込みをしています。

店長の書き込みに出てくる「C」が私のことだと思います。

昨日…17日の午前2時ごろ、突然店長から電話があり部屋に行くように言われました。

店長は自分の店でストーカー行為を繰り返し、挙句の果て、アルバイトの女の子に痴漢行為をして店をクビになりました。

そんな人です。

それからもクビになった店にたびたび訪れたりしていました。

もう店長は頭がおかしくなっているとしか思えません。

昨日の夜中も突然の変な頼みで、断ろうかと思いましたが後でつきまとわれたりしても面倒なので部屋に来たわけです。

店長の言うように鍵は開いていました。

部屋に入るとCCDカメラもデッキもすぐ見つかりました。テープを急いで回収するように言われていたのですが、やはり中身が気になって見てみました。

気持ちの悪い映像でした。

そこには店長が1人で映っていました。店長は1人でバットを振りまわしたり、スタンガンをバチバチさせたりしていました。

ときおり「A!A!A!」とか叫んでいました。「A」さんというのは同じ店のマネージャーさんです。

ひとしきり1人でバットやスタンガンを振りまわしていました。

その後のおぞましい映像は思い出しても寒気がします。

店長は突然パンツをおろし、自分のペニスをナイフで切り始めたのです。どくどく血が流れていました。

そして店長は自分で119番し、救急隊員に連れていかれました。そこでビデオは終わっていました。気持ちの悪いビデオでした。

ビデオを見終わってふと棚の上を見ると小瓶に入れられた蝋細工のペニスが並んでいました。

その横にはアルバイトの男の子たちの写真が無造作に置いてありました。

私はふと、2ちゃんねるのとある板に立った気味の悪いスレッドのことを思い出しました。

「38歳、元ファーストフード店店長」

「ストーカー」

「ペニス切断」

「切断されたペニスの入った子瓶」

これらのキーワードが引っかかり、私はもしやと思い、店長のパソコンを立ち上げました。

思った通り、店長はこのスレッドをブックマークに入れていました。

店長が、「証人 ◆k77zBQp.」であることが判りました。

店長の書き込みは妄想に溢れています。店長の書き込みに出てくるマネージャーの「A」さんは今も元気に働いています。

「B子」さんとは店長にたびたびストーカー行為をされていたあの子のことでしょう。

ある日店長に公園に呼び出されたB子さんはいきなりわいせつな行為をされたそうです。それを助けたのがAさんです。

店長はこの痴漢事件でお店をクビになりました。おそらくグロテスクなホームページとやらを作ったのも店長自身だと思います。

私は今日一日、このビデオテープを言われたとおり店長に届けようか、それとも警察に持って行こうか迷っていました。

店長は何か罪を犯しているでしょうか?

リンチを受けたと妄想し、自分で作ったホームページに驚き、部屋で1人でバットを振り回し、自分で自分のペニスを切って救急車で運ばれる、店長がやったことはすべて自分が被害者です。

結論が出ました。やはり店長にこのビデオを持って行くことにします。

かなりジリジリしながら待っているようですし。

私は店長がこのビデオを見ることで、すべてが自分の妄想だと気づき、目が覚めることを願っています。

私が店長の部屋で店長のパソコンからこのスレッドに書き込むことは、もうないでしょう。

店長のパソコンに残されていたこのトリップ「#98730100」を使うことももうないでしょう。

板住人の皆さんにはご迷惑をお掛けしました。失礼します。

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