父親が道警勤務で、事件事故は親父の出動の方がニュース速報よりも早い。だから事件事故は「親父の仕事」のイメージが強かったりする。
でも、豊浜トンネルの崩落のときはちょっと違った。
緊急出動の指令を受け、着替える親父の顔が妙に暗いのだ。
親父に「今回は何?事件かなんか?」と聞くと、普段は「言えん」とか「話すことはない」と言って出動内容を話さない父親が、「事故」とだけポツリと言う。そして母親に「今回はしばらく帰ってこれないわ。長引く」と言って出て行った。
親父が出て行ってしばらくした後、テレビにニュース速報。現場の中継を見た瞬間に、親父のあの表情の理由がわかった気がした。
多分、最も初期の時点で既に生存が絶望的だった、そんな事故だったんだろう。
結局、親父は4日間帰って来なかった。
5日目の夕方、着替えを取りに戻ってきた親父に状況を聞くと「直撃してる。バスは真下だ。方法が見つからん。ほとんどの家族が諦めてる」と言った。
俺は「スコープからの映像は見たの?中はどんな感じなの」と質問した。
「5センチ」
「何が」
「スコープで確認できた遺体の身長だ」