高校の時、仲の良い友人が「週末、家に泊まらない?」って誘ってきた。
「親もいなしさ、酒でも飲もーぜ」って。
特に用事もなかったけど、俺は断った。
でも、しつこく誘ってくる。
「他をあたれよ」って言ってもなぜか俺だけを誘ってきた。
あまりにもしつこいので「なあ、お前一人じゃ怖いのか?」とからかってみたら、急に黙り込んだ。
「なんだ、図星か?」って追い討ちをかけてみると、突然真面目な顔になって「なあ、お前、幽霊って信じるか?」なんて言ってきた。
なんだこいつって思いながら「まあ、見たことは無いけど、いないとも言い切れないかな」って答えた。
「じゃあさ、週末に家に来いよ。幽霊は、いるって解るよ」なんて言いやがる。
「ふ~ん…で、見に来いっての?でも、止めとくよ」って言うと、泣きそうな顔で「頼むよ、来てくれよ」って言う。
「じゃあ、具体的にどんな幽霊なんだ?」って訊くと「毎晩12時くらいに階段を1段ずつ昇ってきてる。そして週末にちょうど家の前に来るはずだ。その時、一人なのが怖いんだ」って、本当に怖がりながら言うんだ。
しつこいのもあるけど、ちょっと面白そうだなって気持ちがあって「分かった、行くよ」って言うと、「ありがとう、ありがとう」って繰り返し言ってた。
そんなこんなで、週末に友人宅に訪れて、他愛の無い話や、テレビを見たり、ゲームをしたりして遊んでた。
そして、23時半くらいになって幽霊の話を始めた。
※
「なあ、幽霊が階段を昇って来るってどういうことだ?」
「一週間くらい前から、家の前の階段を昇って来る足音がするんだ。でも俺にしか聞こえてない。親に言っても、そんな音は聞こえないって言う」
「んで、今日階段を昇りきるっていうの?」
「ああ、階段を数えたから間違いない。確かに今日、家の前に来る」
「通り過ぎるってことはないのか?まだ上もあるだろ?」
「それも考えられる、だけど家に来るかもしれない。それが怖いんだ」
「ふ~ん…」
などと話をしてると友人が、
「おい、聞こえるだろ?足音」
って言う。でも自分には何も聞こえない。
「全然聞こえないよ」
「なんでだよ、聞こえるだろっ、ほら、また一段昇っただろ!?」
「落ち着けって、何も聞こえないよ。気のせいだろう」
「なんでだよ、なんで聞こえないんだよ!ほら、ほらっ!」
「聞こえないって、落ち着けよ!」
イラつきながらなだめようとする。でも、もう友人はこっちの話を聞こうともしない…。
「止まった!!今、扉の前にいる!!!」
「じゃぁ、開けて見てこようか?」
っていうと、激しく止めてきた。
「止めてくれ!開けないでくれ!!いるんだ!そこにいるんだ!!」
「大丈夫だろ!何も無いじゃないか!」
こっちも語気を荒くしてなだめようとする。
すると、急におとなしくなったかと思うと友人は、こう言った。
「…ダメだ、ずっとこっちを見てる。もう…逃げられないよ」
「おい、何言ってるんだ!? 何も無いだろう!? 大丈夫だろ!?」
友人の一言が、異常なほど恐怖心を駆り立てた。
「叩いてる! 扉を叩いてるよ!!」
って言ったかと思うと、
「うおおおおおおおお」だか「うわあああああああ」だか叫びながら、友人は扉に向かって走っていった。
あまりの突然のことに、俺は体が動かなかった。
友人は叫びながら、扉を開けて外へ出て行った。
俺も慌てて追いかけたけど間に合わなかった…。
友人は踊り場から身を投げていた。
※
訳が分からなかった…何が起きたのか…記憶に残ってるのは、その後の警察の取り調べからだった。
何が起きたのか、どういう状況だったのか、自分の覚えてることを全て話した。
意外なことに、警察はあっさりしていた。
もっと疑われると思ったからだ。
意外なことはまだあった。警察官が呟いた一言だった。
「またか…」
またか?何だ?またかって!?不自然な言葉を疑問に思い訊いてみた。
「またか…って、どういうことですか?」
「…あまりこういうことは言わないほうがいいかも知れないけど、君も関係者だし、知っていてもいいかもしれない」
と話してくれた。
それは、友人のような自殺が初めてではないこと、同じ事が同じマンションの同じ部屋で何度か起こっていること。原因が警察でも解らない事、など。
結局友人の死はノイローゼによる突発的な自殺、ということになった。
悲しみというより、驚き、何がなんだか解らないまま、終わっていった。
結局友人は何を聞いて、何に恐怖していたのか…。
全て終わったと思った時、電話があった。
死んだ友人の母親からだった。
「夜分恐れ入ります。先日は、大変ご迷惑をおかけしました」
「あ、いえ、こちらこそ…」
と言葉を探っていると、
「あの、変なことを聞くかもしれませんが…家の息子は、確か死にましたよね?」
「え?」
何を言ってるんだろう、お通夜も、告別式もやったじゃないか。
まさか、息子を亡くしたショックでおかしくなってなってしまったのか…。
と思っていると、
「実は…今、扉を叩いてるんです…息子が!」