不思議な体験や洒落にならない怖い話まとめ – ミステリー

呪いのコンパクト

鏡(フリー素材)

以前、井戸の底のミニハウスと、学生時代の女友達Bに棲みついているモノの話を書いた者です。

「巣くうものシリーズ」で纏めてもらったので、説明は省略します(※これまでの流れについて、詳しくは「巣くうものシリーズ」カテゴリをご覧ください)。

今年の初めの出来事だから、もう結構前のことです。

前回書いた怨霊塊憑き男Iの件で知り合った、俺の人生二人目の「恐らく本当に視える人」H絡みの事件です。

BがAに連絡して、会おうと言ったそうで。

思えば、学生時代からAはB(というかBに憑いているモノ)を避け気味だったが、BはAを気に入っていたようだった。

去年から何だかんだでAがBと関わっているから、このまま友達付き合いを復活したいのではないかと思う。

Aは断る理由も無く、先の件で引け目があったのでOKしたものの、Bと二人きりはどうしても気が進まず、俺を呼び出した次第だ。

引け目とは、怨霊塊憑き男Iの家に熟睡中のBが連れ込まれた段階で反対しなかったことだそうだ。

A曰く、前回は本当にとんでもなかったらしい。

「井戸の時は逃げたら済んだけど、あの時はHさんが逃げ道を塞いでたから……。

ドアが揺れ始めてからずっと、止めなきゃいけなかったんじゃないかと思って、『もしBのアレが負けたらBはどうなるの?』と思うと凄く怖かった」と言う。

当日Bと待ち合わせ場所で会った時、既にAが微妙な顔をしていた。

ファミレスに入ると、Bが「コレ見て♪」と鞄から何か取り出した。

コンパクトと言うのか、円く平たい形の二つ折りで、内側は両面が鏡の奴。何か古そうな奴。金属のような質感で、凄く古い感じ。

横のAは、また表情が固まっている。

「アンティークなんだよー。この前ほら、肝試しなのに現地到着前に私が寝ちゃったでしょ? Aと俺君が旦那に連絡してくれて」

Bはあの後、Cの呼び出しで『肝試しスポットを教えてくれた人』としてHに会ったそうだ。

「Hさん、おかしな場所に行かせたせいで倒れたんじゃないかって謝ってくれてね、お詫びにってコレくれたの♪

結構良くて気に入ってるんだけど、安いものじゃないみたいなんだよね。

お返しにお菓子でも送ろうかと思ってさー」

適当に喋ってBを帰した後、Aが即効でHに連絡し、数日後に会った。

現れたHは、俺らがBに会ったと聞いた段階で何やら察していたようだった。

Aが「何考えてんですか!」と怒鳴ると、Hはフフンと鼻で笑い言った。

「いいアイデアだと思わない? 散らばらないよ、あれ」

……呪いの部屋と同じように、呪いのグッズも現実に存在することを改めて知らされました。

いや、指輪の一件で既に知っていたようにも思うが、古物やリサイクル品に稀にでもその類のものがあると思うとやはり怖い。

件のコンパクト、確かにモノは良いがHは一銭も払っていないそうです。

寧ろ金をやるから黙って引き取ってくれと泣きつかれた代物だと。

前回の話の怨霊塊憑き男IのためにHが情報収集をしている間、Hが「視える人」だという情報も広く垂れ流しだったそうで、お祓いしてくれと妙なものを持ち込んで来る奴は割りと居たらしい。

Hは、何も憑いていない場合はそう教えてやり、偶に出てくるホンモノについては小遣い稼ぎのネタにしていたと言っていました。

金目の物で自力で片付くものは引き取り(そして片付けて売り)、奉納で済むものは処理方法を助言したりして、ポツポツ稼いでいたのだそうな。

「もちろん命は惜しいから、手に負えないのはムリだっつって断ったよ。

あの鏡はね、間違えた。鏡から離れないんだから、最悪本体ごとおっぽり出せば済む訳で、リスクも小さいと思ったんだけどね。甘かったねー。

だからBさんに頼んじゃった」

Hはカラカラと笑いそう言った。

Hに聞いたところでは、そのコンパクトは持ち主の不在を許さないのだとか。

捨てようとすると邪魔が入り、どうしても捨てられなかったそうです。

憑いているモノはHの手に余るから長く持っていたくないし、かと言って他人に譲るのも良心が痛むので、持て余していた一品だと。

「本体から他所にはいけない奴だし、Bさんのアレと勝負できるレベルじゃないから問題なし。Bさん、寝なかったっしょ?」

Bが例のコンパクトを暫く愛用してくれたら、擦り切れて掠れて消え去ってくれるだろう…と言うのがHの言い分でした。

で、実はここまでが前フリです。

俺に再度Aから連絡が来たのが、確か5月下旬。

……B、コンパクトを手放してしまったと。

Hにも連絡したら、あの飄々としたHが泡を食っていたそうです。

俺も巻き込まれてAとHに付き合い、三人で次の所有者を訪ねました。

AがBに聞いたところだと、友人(学生時代の友人ではないので俺達とは面識無し)に見せたら、凄く良い品だと言われ羨ましがられ、ちょっとだけ貸して欲しいと言うから貸したら返してくれない…と。

「携帯に連絡してもメールしても返事が無いの」

と言った時のAの表情を誤解したようで、

「貰い物なのに申し訳ない」

とBは凹んでいたそうです。

……Aが苦労してBから聞き出した名前とその他の情報を頼りに、俺達がB友人宅を探し当てた時、B友人は離婚前提の別居だとかで家には居ませんでした。

ご主人だけが居て、俺達の目的が奥さんに貸したコンパクトだと言うと出て来て、暗い顔で言葉少なくモノを渡してくれました。

その時、両足首に包帯を巻いていた彼の右袖口からチラリと、手首より少しだけ上辺りに何か見えました。

モノを引き取りB友人宅を辞して、俺はAとHに確認しました。

…見間違いじゃなかったです。「ヒトの歯型だった」と二人とも言いました。

その後の二人の会話は、以下の通り。

「奥さんの歯型だよね、アレ」

「だろうね。……やっちゃったねえ」

さすがのHが、真っ青になっていました。

「Hさんのせいだよ」

「うん、俺のせい……。『呪いのコンパクトだよ』と言っといたから、Bさん離さないと思ってた」

「勝手なこと言わないで下さい。大体、高価なものなら泥棒に遭うことだって考えられるでしょ。何でそんないい加減なことするんですか」

Aが物凄く刺々しい口調でそう言うと、Hは黙り込み、気まずい気分で俺らはHと別れました。

例のコンパクトは、Hが持ち帰りました。

A曰く、もうコンパクトには何も無いそうでした。

Bが愛用していた数ヶ月で削り取られ、磨り減り続けたモノの最後っ屁というか断末魔というか、そういうものをB友人は受けてしまったのだと思う、と。

その後、俺が6月にHと飲んだ時(Iの件以降、何となく付き合いしている)に聞いたところでは、まっさらになった例のコンパクトを売り払った金に色を付けて、例のB友人である女性に送金したそうです。

送金先は自腹で調べたそうで、いつも能天気に見えるコイツでもあの一件は堪えたたんだな…と思いました。

また最後になりますが、そのコンパクトに憑いていたモノの正体について。

Bのコンパクト紛失以前、AがHを呼び出した際に少し聞きました。

……俺にはよく解らなかった話ですが、Hが『視た』ところでは、『4つ足の哺乳類に昆虫の羽根がある生き物』がしがみ付いていたとか。

Aには姿は見えなかったが(能力の差か、Bが居たことによる影響かは分からない)、ブンブンと背筋の寒い羽音が絡まり付いていたと。

その中では一人だけ視えない俺が、

「哺乳類に虫の羽根って何? 異次元の生き物とか?」

と聞いたら、AとHがまるで狙ったようなタイミングでバッと目を逸らしたのが印象的でした。

Aは黙っていましたが、Hはハハハとわざとらしく笑い、

「……人間が、恨みとか呪いだけで精神の形まで捻じ曲げてあんなモノになれるってのが怖いよね。本当に」

と言いました。

正直、俺にはグロいものが視える力が無くて良かったです。

曖昧な部分が多いですが、以上です。

モバイルバージョンを終了