俺は4歳になるまで、夜はばあちゃんの家に預けられていた。
夜はばあちゃんと並んで寝るんだけど、その部屋に亡くなったじいちゃんの仏壇があったんだ。
夜中に目が覚めたりすると、大抵金縛りになる。
その時、必ず仏壇の戸が少し開いていて、中から誰かがこちらを見ているんだ。
扉に手を掛けて、白い顔を半分覗かせて。
最初は、じいちゃんだと思っていた。
ばあちゃんが仏壇に向かって、
「じいさん…」
と呼び掛けるのを見ていたから。
だけど、その顔はよく見ると子供みたいなんだ。
こちらを見ながら、薄っすらと笑っている白い子供の顔。
そんなものを見ながら、俺は不思議とも思わずに4歳までその部屋で寝ていたんだ。
※
ばあちゃんは俺が11歳の頃に亡くなった。
よく覚えていないけれど、何かの病気だった。
半年くらい入院していて、見舞いに行くと割と元気に見えたのに、急に具合が悪くなったかと思うと、2日も持たずに亡くなってしまった。
それでも自分の死期は薄々感じ取っていたみたいで、死ぬ間際には
「やっと、じいさんのところへ逝けるねぇ…」
みたいなことを言い、周囲を困惑させていた。
※
ばあちゃんは、具合が悪くなったと同時に昏睡状態に陥った。
親族は交代で病室に詰めていたんだけど、最後を看取ったのは俺の母親だった。
その時の様子が、ちょっと変だったらしい。
母親は病室のベッドの横で本を読んでいたんだけど、何となく呼ばれたような気がして、ばあちゃんの方を見たそうだ。
すると、昏睡していたはずのばあちゃんが目を開けていた。
瞬きもせず、じっと天井の方を見つめている。
母親が声を掛けようとした時、ばあちゃんの口が動いた。
「お前、じいさんを何処へやった」
実の子である母親が、今まで聞いた事もないような、低くドスの利いた声。
呆気に取られていた母親が我に帰ると、ばあちゃんはもう目を閉じていて、それから半時間程であの世へ旅立ったそうだ。
ばあちゃんは、あの白い顔をずっと見ていたのかも知れない。
今思えば、そんな気がする。