俺は昔、有名な某古本屋でバイトしていました。
お客の家に行って古本を買い取る買取担当が主な仕事です。それである日、一軒の買取の電話が店に入りました。
そこは店からだいたい車で20分ほど南に行ったある一軒家で、俺は日にちを決めてそこへ伺う事になりました。
当日になって俺はもう一人の買取担当のF君とワゴンでその家に向かいました。でも、教えられた住所へ行ってみたんだけれど家が見つからない。
教えられた場所にはその家がありませんでした。
細かく説明すると、教えられた場所には空家があるだけで、仕方ないからその空家の向かいにある駐車場にワゴンを停めて俺一人でその空家を見に行きました。
その空家は長方形の建物で、下(一階)は何か店みたいな造りをしてたけど、シャッターが閉まっていて中の様子は見えませんでした。
そこには外から二階に行く階段がありました。でも階段は分厚い板で仕切られおり、そこから上には行けないようになってます。
周りも草がぼうぼうで伸びっぱなし。二階の窓から見える中の様子も何だか荒れてる様で、内心『帰ろうかな…』と思いました。
『まいったな…。こんなとこ絶対に人住んでないぞ!!』
内心そう思いながらも、とりあえずその家の隣にあるクリーニング屋で聞いて見る事にしました。
「すいません、この住所って隣の家で合ってます?」
と、クリーニング屋のおばちゃんに聞いてみると、
「あ~、この住所はここから斜向かいの○○さんの家だね」
「え、隣じゃないの?」
「何言ってんの、隣はずっと前から空家だよ」
「えっ、空家!?」
「そうよ。隣は1年前ぐらいから誰も住んでないわよ。二階にも上がれないでしょ?」
確かに二階には板張りが…。
俺はその時なんだか嫌な感じがしてきたのですが、仕事なので店に帰る事も出来ません。
※
取り敢えず住所の間違いも分かり、ほっとした俺はF君のいるワゴンへと戻り、 ドアを空けて中で待っているF君に事情を説明しました。
「だからね、間違いだったんだって♪ ほんとはここじゃなくて斜向かいの…あの家が○○さんの家だってさ!!」
ところが彼は俺の説明を不思議そうな顔で聞いてるだけでした。俺はどうして彼がそんな顔をするのか分からず、少し怖くなりました。
そして彼はとんでもない事を言い始めました。
「え、何言ってるの? お客の家ってそこの空家みたいなとこでしょ?」
「違うよ!ここから斜向かいのあそこの家だってよ」
「はあ? そんなはずないよ、だってお客さん待ってるよ?」
俺は『こいつ何言ってんだ?』と思ったけど黙っていました。
凄く嫌な感じがしたから。
「なんであそこがお客の家なの? 空家だよ?」
「だってねぇ、○○さん(俺の名前)、俺ずっとあの家見てたけど、さっきからおじいさんが二階の窓から俺達を見てたんだよ? カーテン越しにず~っと!!」
俺はそれを聞いて急いでエンジンをかけようとしました。
「馬鹿おめぇやべぇぞ!!あそこは二階には上がれねぇんだよ!!」
俺はもう怖くてセルも上手く回らないほど焦っていました。
でも、F君は
「何してんの? 居たんだって。早く行こうよ」
と俺を誘います。
もう怖くて怖くて急いでそこから離れ、斜向かいのお客さんの家に飛び込みました(仕方ないので仕事もキチンとしました)。
その間もF君は、
「ホントに俺らの事見てたんだって。あそこ人住んでんだよ」
と繰り返してました。
俺は何も聞こえないフリをして仕事を終えると、すぐに店に帰りました。未だにあそこに居たそのじいさんってのが誰だったのか判りません。
どうして最初にあの場所に行ったのかも…。