これは自分の体験談という訳ではないんですが…。幽霊やなんかの仕業なのかもよく分かりません。
私も大分絡んではいるんですが、祖母の様子がちょっと変なんです。原因は判っています。一通の手紙。それも死者からの手紙と言えるのかな。いわゆる遺書ってやつです。
私は千葉の木更津で古書店を営んでいます。最近は漫画のスペースが大分多くなってしまいましたが、一応小説やなんかも扱ってます。
私が小説が好きなもんで。漫画は金のためにやっているようなもんです。「おいおい、商売なんだから!」なんて言われたりしてね(笑)。
その小説に半年ほど前、すごく嫌なものが挟まってたんですね。
遺書が。
よく分からないメモやなんかはよく挟まってるんですけどね。あと、現金なんかもたまに。
「ちゃんと、現金は返せ!」なんて野暮なことは言わないでくださいよ~。でもね、さすがに遺書は初めてでした。
遺書の内容は、もう手元にはないので正確ではないんですが、こんな感じでした。
「いつ何が起きても不思議ではないので、生きているうちに遺書を書いておきます。このあいだ、敬一が死んでしまった時に、自分が生きていることがすごいことなんだと思った。
それといつ死んでも不思議じゃないって思った。だから書いておきます。お父さん、お母さん、本当にありがとう。僕はお父さんとお母さんの子供で幸せでした。本当にありがとう」
これだけなんですけどね。
突っ込みどころは結構ありますよね。
本当に「それだけかい!」てのと「名前くらい書けよ!」、あとは「生きてるうちに書くのは当たり前だよ!」て感じですかね。
あと、これだけじゃ、これ書いた子、生きてるのか死んでるのか分かりませんね。本に挟んであるの忘れちゃったのかどうかしたのかもしれないし。
あ、この本はですね。
直接お客さんから買い取ったんじゃなくて、問屋さんみたいなとこから買ってきました。古本にも、問屋さんのようなものがあるんです。
それぞれの店が買い取ったもの全部さばききれるわけもないので、そういったものをまとめて買い取って、他のとこに売るんです。
だから、元々誰の本かは調べようがないんです。分かれば、生きてるか死んでるか調べられたんですけどね。
それでだ。
この遺書らしきもの見つけて、面白いものみつけたよって家族に見せたんですよ。そしたら、祖母がね。供養しなきゃ駄目だって。
お寺さんに持っていって拝んでもらえって言うんですよ。でもね、そんなの面倒じゃないですか。だから、行きたきゃ自分で行けって言ってやたんですよ。
でもね。
うちのばあちゃん、歩けないのよ、もう90過ぎてるし。家の中うろうろするぐらいはできるんだけどね。
そしたら、自分で供養するとか言い出して。やめとけっていったんですよ。そんなもん、素人がやるもんじゃないって。
それなのにね。ばあちゃん庭で火起こしてね。なんか、お経みたいの唱え出して。「なんみょうほうれーん」みたいの。
それで、お経を唱えながら、燃やしちゃったの。馬鹿だよねぇ、素人の癖に余計なことして。やめろっていったんですよ、ほんとに。何回も何回も。
その晩から。ばあちゃんの様子がおかしくなったの。夜中に、変な奇声をあげるんだよね。「あ~~~!」って。
部屋違うのに私の寝室まで聞こえてくるくらいの大声。あんなよれよれなのに、よくあんな声出るよなって位の大声。
私も負けずに向こうの部屋までとどくくらいの大声で「うるせー!」と言ってやると、ぴたっと止まるんです。
でも、そのうちそれがお経になったりしてきね。しばらくは、まぁ我慢できたんですけど。さすがに毎晩お経が聞こえてくると気味悪いでしょ。
だから、部屋まで行ってやめさせようと思ったんですよ。それで、部屋の前までいって、ふすまをバンって開けて「うるせぇんだよ」って言ったんです。
そしたらね、ばあちゃん布団の上で、お経唱えながら、なんつうんだろ。V字腹筋って腹筋の仕方あるでしょ。
気をつけした格好で、頭と足を同時に上げるの。それやってるんですよ。何回も、よく平気だなって思う位強い力で頭を上げたり下げたり。
だんだんだんだんって。そんで口からは「なんみょうほうれん」って。凄い力ですよ。90歳のばあさんができることじゃないから、きっと祟られてるんだと思います。
だから、何度も止めたのにね。皆さんも、素人が余計なことしちゃいけませんよ。
木更津の古書店主人からの、ちょっと怖い話と教訓でした。