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灯りの中の男

薄明かりの中で

H君は、ちょっと変わった高校生だった。

今どき珍しく、携帯電話も持っておらず、自宅にはゲーム機もない。

そんな彼が夢中になっているのは、なんと「ラジオ」だった。

夜遅くまで起きてしていることといえば、友人とのLINEではなく、布団の中でラジオ番組に耳を傾けること。

その趣味に、学校の先生たちは「平成生まれなのに、まるで昭和の子どもみたいだな」と苦笑いするのだという。

ある夜のこと。

テスト期間中だった彼は、布団に仰向けに寝転びながら、イヤホンでお気に入りの深夜ラジオを聴いていた。

片手には教科書を持ち、ながら勉強のつもりだったようだ。

やがて目的の番組が終わり、「そろそろ寝るか」と思いながら、枕元にあるはずの照明のリモコンに手を伸ばした。

だが、いつもある場所にそれが見当たらない。

H君は小さくため息をつき、ごろりとうつ伏せに寝返ってリモコンを探そうとした。

そのとき――

彼の目に飛び込んできたのは、部屋の隅にうずくまる、見知らぬ「誰か」の姿だった。

そこにいたのは、背広を着た太った中年の男。

男は、膝を抱えてじっと座り込んでいた。

まるで、そこが自分の居場所であるかのように、静かに、しかし確かに。

一瞬、H君は「泥棒だ」と思い、心臓が跳ね上がる。

とっさに床に手をついて上体を起こした拍子に、手がリモコンに当たり、室内の明かりが消えてしまった。

しまった、と思った瞬間、彼は暗闇の中で男の姿を探した。

が、そこにはもう誰もいなかった。

「見間違い……?」

そう自分に言い聞かせて、震える手で再びリモコンを操作し、照明を点けた。

次の瞬間。

「うわっ! いるしっ!」

思わず声が漏れる。

部屋の隅には、さっきと同じ姿勢で、おっさんが戻ってきていた。

膝を抱え、まるで子どものような体勢で、じっとH君を見ているのだ。

H君は慌てて立ち上がろうとしたが、足元にあったリモコンを踏んでしまい、またしても照明が落ちた。

そして――男の姿も、また闇と共に消えた。

恐怖で震えながら、H君は部屋を飛び出し、隣の部屋で寝ていた兄の扉を乱暴に叩いた。

「なんだよ、うるさいな……」

不機嫌そうに扉を開けた兄に、H君はすがりついた。

「電気をつけると、おっさんが現れる……!」

自分でも何を言っているのか分からないまま、ただ必死に訴えたという。

「は? おっさんって……何の話だよ」

兄はあきれ顔で笑いながら、H君の部屋に入っていき、ためらうことなく照明をつけた。

部屋の中は、いつも通りだった。

ベッド、机、教科書、散らかったノート、そして布団の上に置かれたイヤホン。

おっさんの姿は、どこにもなかった。

H君は黙ったまま、部屋の隅を見つめ続けた。

何も言わずに、ただそこに視線を送り続けていた。

兄は「なんだよ、マジで怖いんだけど」と言いながら、苦笑いして戻っていった。

翌日、H君は私にこの体験を話してくれた。

「幽霊って、普通は電気を消したときに出るもんじゃないですか? でも、あのおっさんは、電気をつけたときだけ、いたんです。変ですよね……」

最後は困惑したように、苦い顔をして呟いた。

私はしばらく黙って考え込んだ。

「闇ではなく、光の中にだけ棲む存在――かもしれないね」

そう言うと、H君はさらに眉をひそめた。

彼は、もうあの部屋で一人眠るのが怖くなったと告白した。

もしかしたら今も、彼の部屋のどこか――

明るい光の中に、誰かが、ひっそりと膝を抱えて、待っているのかもしれない。

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