旅先で知り合ったアニキに聞かせてもらった話。
このアニキが昔、長野と岐阜の県境辺りを旅していた頃、山間の小さな集落を通りかかった。
陽も暮れ掛けて夕焼け空に照らされた小さい村の約半数近くが廃屋で、残りの半数近くも結構古い建物ばかり。
そして、小さい学校らしき建物にはちゃんと校庭もあった。
季節は夏で、アニキは今日はここで野宿することに決め、校庭と校舎の間にある階段に腰掛けて寛いでいた。
夜になりタバコを吸いながら何気なく周りを見渡すと、月明かりでかろうじて物が見えるほどの暗い中を、校庭の向こう側からこちらに向かって誰かが歩いて来るのが見えた。
それは24〜25歳くらいの女の人で、白っぽい服を着ていた。
最初はアニキも期待はしたけど、その人が近くまで来た時にはむしろ不安がよぎっていた。
その人はずっと笑い続けていたから。
しかもアニキと同じように階段の端っこに腰掛け、ずっと笑い続けている。
下手に動くと余計マズいんじゃないかと、アニキはとても緊張していた。
隙を見て逃げようとすればするほど余計に怖くなる。
だが他に行き場がないし、旅の疲れも溜まっているので、いつしか眠ってしまっていたそうだ。
朝になって目が覚めると、夕べの気のふれた女はいなくなっていた。
でも、着ていたシャツのあちこちに女の人の手で触ったような汚れというか、跡が付いていたそうだ。
近所の人にこの辺りでちょっとおかしい人はいないか聞いてみても、知らないという。
このアニキ曰く、下手な幽霊よりも生きている人間の方が怖いんだそうだ。