俺の母は小学校の教師をしている。
霊感があり、赴任先によっては肉体的にかなりキツかったらしい。
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10年前に4年生のクラスを担任した時、かなりの霊感を持つ女生徒Aと出会った。
Aは小学校に入学してから、近所の誰がいつ亡くなるとか、校庭にこんな霊が居るなどと口走り、校内では有名になっていたらしい。
しかし上級生の自殺を言い当てた時、虐めの対象になった。
その時に担任なったのが俺の母で、Aの能力は本物と感じていた。
実際に受け持ってみると、上に挙げたことを口走り続けたり、感情をコントロール出来ずにポルターガイストを起こしたりと大変だった。
母は本人に謹むようにと霊感を封印させた。
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一年が経ち、5年生に進級した時も母はAの担任。
そして、ある事件が起きた。
他のクラスの生徒が深夜になっても帰宅しないらしく、5年生のクラスを担任している教師達が学校に集まり、探すことになった。
母もその一員で、この霊感を何とか生かせないものかと思ったが、捜索方面の力は無かったらしい。
頭を抱えていると職員室の電話が鳴った。
母が電話に出ると相手はAで、焦っている様子だった。
「先生、学校の人で行方不明になっている人、居ないですか?」
という言葉に驚いた母は、隠さずに伝えた。
「やっぱり。夕方からある病院のイメージが離れないの。血の臭いとか、肩に乗っかって来たり、段々酷くなってきて、体がしんどい。
でも誰か生きている人間も居て、集団で出られないってドア叩いてて。私、行かなきゃいけない気がする」
Aの訴えを聞いた母は意を決し、職員室を後にした。
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Aを迎えに行った母は、コンビニの駐車場で詳しく話を聞くことにした。
A曰く、場所は廃墟と化した某病院らしい。
時計を見ると深夜0時を過ぎている。
母はAを信じ、車を走らせた。
車のランプが点かなくなったり、急に点いたラジオから変な声が聞こえて耳鳴りがしたり、かなりアクシデントがあったらしい。
20分ほど車を走らせると、何とか病院に着いた。
着いた途端、立っていられないほどの眩暈と吐き気に見舞われた。
それはAも同じで、母は可能な範囲で浄霊し結界を張って突入した。
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廃墟の病院は2階建ての棟と3階建ての棟の、二つの棟から成り立っていた。
しかしAは、導かれるように進んで行く。
そして手術室らしき場所で行方不明になっていた生徒を発見した。
どうやらネットで募った仲間達と凸っている最中に、ドアが開かなくなって失神したらしい。
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それから9年後。
就職を機に上京した俺は、得意先に勤務していたAと出会った。
俺の母とも再会したAは、6月に俺の奥さんになりました。
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補足
その後、Aは俺の母から霊感を抑えるように言われ、自身で随分と力を抑えられるようになったそうです。
中学2年生の時に父親が亡くなったのを機に、霊感が弱まったそうです。
勘は冴えたままらしいですが。
俺とAは隣の市に住んでいたから、互いに出会うまで顔も名前も知らない。
母は家では仕事の話はしないタイプだから、Aの名前を聞いたことすらない。
母もAの就職先までは把握していない。
それにも関わらず、俺が得意先で初めて出会った時、隅に呼び出した奥さんの第一声が、
「間違っていたらごめんなさい。
あなたのお母様って、○○市で教師をやってらっしゃる○○さんですか?」
奥さんは俺と出会う前日から、ずっと俺の母の顔が頭から消えなかったらしい。