母の同僚のおじさんが釣りに行った時のこと。
朝早く車で出掛けて行き、朝日が昇るまで車の中で焼酎を飲んで暖まっていた。
いつもは待機用の小屋のような所で過ごすのだけど、その日は何となく車に居たらしい。
すると向こうからバイクがスーッと寄って来て、車の脇に止まった。
そのバイクに乗っていた二十代くらいの若者は、ヘルメットを取って車の中を覗き込んだ。
おじさんは『何事か?』と思いつつも窓を開け、その若者と会話した。
その場所は凄い田舎で、夜になると車通りが殆どなくなるため、
『こんな時間にどうしたんだろう?』と思い話し掛けたのだそうな。
おじさんは若者を車に招き入れ、焼酎を振る舞った。
酒を酌み交わしながら、おじさんが「こんな夜中にどうしたの?」と聞くと、
若者は「ちょっと事故って…」と言った。
見ると頭に血が付いていた。
おじさんは若者の頭に絆創膏を貼ってあげた。
※
若者が帰る時、おじさんは若者がバイクで来たということを思い出し、
「すまん、酔っ払い運転だなぁ」と言うと、若者は
「バイク壊れてるんで」と言い、おじさんの目の前でバイクを押して帰って行った。
その時おじさんは酔っていたので、バイクを押して歩いているにしてはやけにスピードが速かった。
と言うより、殆どバイクに乗っているようなスピードで帰って行ったことを然程気に留めなかった。
※
さて、朝日が昇り、釣り舟が到着した。
おじさんは船長にその若者の話をした。
すると船長は少し言い淀んだ後「その若者はあれだよ」と言った。
何でも、釣り人の待ち時間に使われる小屋には、若い男の幽霊が現れるということで有名なのだとか。
酒飲みのおじさんは、母に「幽霊と酒飲んじゃったよー」と嬉し気に語った。
おじさん曰く、
「酒を飲み合ったら誰でも友達。あいつは幽霊にしては良い若者だった。
あいつの話は面白かったなぁ。また飲みたい」
私はおじさんほど肝が座っていないので、ほんのり怖くなりました。