姉の体験談。
近所の神社が祭りのために臨時で巫女のバイトを募集していた。
姉はそれに応募し、見事採用された。
主な仕事は祭りの時期の接客であったが、祭りの後も土日だけ働けるようになった。
※
ある日、姉が境内の掃除をしていると、一人のサラリーマン風の男が声を掛けてきた。
どうやら、神主とお話がしたいらしい。
『セールスマンかな?』と思ったが、取り敢えず神主を呼び出した。
神主は境内で立っている彼を一目見て、血相を変えて近付いて来た。
神主が彼に一言耳打ちすると、彼は肩をガクっと落として涙を浮かべた。
男と神主は、姉も入ることを禁じられた(と言うより、入る用事を受けたことがない)部屋に二人で入った。
数分経つと神主がノソっと顔を出し、姉に
「日本酒を持って来てくれ」
と言った。
※
それから小一時間経ったであろうか、彼と神主は部屋から出て来た。
彼は神主に何度も何度も礼を言っていた。
彼は現金を10万円ほど出して、
「気持ちです」
と神主に押し付けて帰って行った。
神主はその10万円から数枚の札を姉に渡し、日本酒が足りないからと、
「10本ほど頼んでくれ」
と言った。
姉は神主の言う通りに日本酒を頼んだ。
日本酒が届いた後、神主は先程の部屋に居た。
神主は、
「部屋の前に置いておいてくれ。今日は帰っていい」
と言った。
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次の週、姉は神主に先週あの後何があったのか聞いた。
要約するとこうだ。
あの男は死神と出会ってしまったようで、近い内に死ぬと宣告された。
それから、ずっと死神が纏わり付いていた。
彼は幾つかの寺や神社を訪れたが、彼の死神を見える人間は居なかった。
お祓いをしてもらってもまるで効果がない、死神は消えない。
そもそも、彼が言い出すまで、彼が死神に憑かれていると気付いた人は居なかった。
しかし、神主は見えたと言う。
ある程度力があればここまで明らかな神は見えて当然らしいが、最近は力がないのに寺や神社を継いでいる者も多いと言う。
そして、見える神主に除霊、と言うか死神祓いを頼んだそうだ。
だが、神主も見る力があると言っても、神を祓えるほどの力はない。
だから彼に清酒をかけ、死神が少しだけ彼から離れた隙に身代わりに憑かせたらしい。
しかし所詮は身代わり、力を抑え続けないと大変なことになる可能性もある。
そこで清酒と身代わりを大量に用意し、当面はこれで力を分散させ、対処法を練らねばいけない。
とのことだった。
姉はその時は『怖がらせるつもりかな』程度にしか考えていなかった。
だが、その後すぐに事実だと悟るようになる。
※
ある平日の夕方、神主の奥さんから電話が掛かってきた。
神主が亡くなったので、通夜も含めてこれからのことを相談したいの来て欲しい、とのこと。
姉は何だか嫌な予感がしたと言う。
姉はすぐに神主の家に向かった。
奥さんに何が原因で亡くなったのかなどをやんわり聞くと、死因は不明だそうだ。
ただ、幾つもの酒まみれの紙人形と、数匹のねずみなどの小動物と一緒に、あの部屋で亡くなっていたそうだ…。
※
その後、姉はその神社でのバイトを辞めた。
その事件から半年程して、奥さんが神主の亡くなった部屋で首吊り自殺した、という話を風の噂で聞いたらしい。
姉は確信した。死神はまだあの神社のどこかに居るのではないか。あの男の人は大丈夫なのか。
そして、あそこで部屋の外とは言え近くに居た私は、死神に狙われているのではないのかと。
話の最後に姉は、
「それからいつもこのお守りを肌身離さず持ってるの」
と、三つの身代わりお守りを見せてくれた。