私の祖母は、亡くなるまでに何度もこの話をしていた。それは、私の父がまだ赤ん坊だったときのこと。
ロンドンが空襲に遭い、住む家を破壊されてしまった祖母は、友人の家に身を寄せることになり、その家の一番上の階の部屋が彼女にあてがわれた。
祖母が赤ん坊だった父親を連れて、その部屋に向かっているとき、階段に人影が見えることに気が付いた。
するとその影が、「今夜、上の部屋で寝ない方がいいよ」と話しかけてきたというのだ。
祖母は忠告に従い、友人に上の部屋では寝ないことを告げ、下の階でその夜を過ごした。
するとその夜、空襲が起こり、祖母たちが寝る予定だった上の階が焼けてしまったのだった。
もしも、その人影の忠告がなかったら、私もこの世にいなかったことだろう……。