友達が塾で帰りが遅くなった時の話。
人通りのない道を家に向かって歩いていたら、道の向こうから誰か歩いてくる。
近づいて分かったんだけど、それは浮浪者風の初老の男性だったらしい。
男は奇妙なことに何台も連ねたベビーカーを引っ張ってる。
まあ、荷物でも入れて運んでるんだろうと思ってあまり気にも留めてなかったんだけど、近づくうちにベビーカーから赤ちゃんの泣き声が聞こえることに気付いたんだって。
「え?」って思って覗き込んだら、中に赤ちゃんが寝てた。
でも、赤ちゃんなのは体だけ。顔は苦しそうな表情をした大人の男。
他のベビーカーにも化粧の濃い女の顔とか老人の顔の「赤ちゃん」が寝てたらしい。
思わず声をあげてのけぞったら、男がこっち振り返ってニヤーって笑ったんだって。
友達は逃げるように家に帰ったらしい。
次の日、そのことを学校で友達に話したら、ここら辺にはベビーカー引っ張ったおじさんがよく出没するってことを聞かされた。
ただ、大人の顔をした赤ちゃんとか、そういうのはみんな話半分で聞いて信じてくれなくて、そいつ自身、すっかり忘れるってことはなかったけど、そのことをあまり思い出さなくなってったらしい。
でも、しばらく経って都心の方に遊びに行ったとき、駅前でビラみたいなのを配ってる人たちがいたんだって。
何気なく受け取ったら、それは尋ね人のチラシだったんだけど、その写真に映っていたのは、あの「赤ちゃん」の顔と同じ人だったんだってさ。