
1999年、ある悲報が全国を駆け巡りました。
女性3人組ユニット『カントリー娘。』のメンバー、柳原尋美(やなぎはら・ひろみ)さんが、デビュー目前にして突然この世を去ったのです。
事故が起きたのは、1999年7月16日の夕刻。
柳原さんは北海道・河西郡中札内村の村道を、自ら運転する三菱パジェロで走行中でした。
その日、彼女はプロデューサー・田中義剛氏が経営するレストランから、振り付けの練習のため観光牧場「花畑牧場」へ向かう途中でした。
午後5時過ぎ、ハンドル操作を誤って車が右に蛇行。
慌てて左に切り返したところ、車は大きくバランスを崩し、ついには横転。
その衝撃で柳原さんは車外に放り出され、車の下敷きとなってしまいました。
すぐに救急搬送されましたが、午後7時10分、緊張性気胸による急性心不全のため帰らぬ人となったのです。
享年19歳。
アイドルとして羽ばたこうとしていた矢先の悲劇でした。
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ところが、この事故を巡って、ある“奇妙な噂”がネット上で静かに広がっていました。
それは、音楽番組『うたばん』の収録時に観客席で目撃された、ひとりの“違和感ある女性”の存在でした。
彼女は他の観客と同じように拍手をしていた――ように見えました。
しかしよく見ると、手のひらではなく、「手の甲と甲」を合わせて逆向きに叩いていたというのです。
一見些細な違和感。
けれど、何人かの視聴者がその不自然な拍手に気付き、強く印象に残ったと語っています。
そのときは単なる奇行として見過ごされたその“逆拍手”。
後日、『カントリー娘。』の柳原さんが事故死した際、彼女の遺体の姿勢について、ある噂が広まりました。
「手の甲と甲を合わせたような状態で倒れていた」という証言が、まことしやかに語られ始めたのです。
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さらに、ネット掲示板ではこんなやりとりも交わされていました。
「逆拍手って、そもそも何か意味があるの?」
「手話で『早くこっちに来い』って意味があるよ」
「いや、死者は生者と逆の行為をするとも言われている。逆拍手はその象徴かもしれない」
こうした声が積み重なる中、あるユーザーが鏡の前で逆拍手を試したときの違和感をこう綴っています。
「顔は明後日の方向を向いて、口が半開きになってしまった。不気味で耐えられなかった」
“死者の拍手”、“呪いの印”、“死への招き”。
そういった言葉が、この逆拍手という仕草に次々と結びつけられていったのです。
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事故との直接的な因果関係は、もちろん何も証明されていません。
あくまで都市伝説の域を出ない話ではあります。
けれど、あの“逆拍手の女”と、若きアイドルの死。
全く無関係と断じるには、あまりに符号が多すぎる――そう感じる者が少なからずいたこともまた、事実なのです。
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時は流れても、ふとした時に、誰かがネットの海にこの話を浮かび上がらせます。
都市伝説は、忘れられたようでいて、常に“誰か”に語られるのを待っているのかもしれません。
そして今も、“手の甲を合わせて拍手する人”の噂は、薄暗い記憶の底に、静かに息づいているのです。