奄美のとある海岸でビデオ撮影をした時の話。
俺の家族は、全員が思い出に残るようにと、ビデオカメラをスタンドに固定して撮るんだよ。
その日もそうしたまま、兄弟で海に入り遊んでいた。奄美に住んでいる叔父や従弟達も一緒だった。
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そして遊び疲れて叔父の家へ帰り、みんなでそのビデオを見たんだよ。
最初から身の毛がよだつ映像だった。
映像の真ん中ぐらいだったかな。裸の女の人がぼんやり映っていたんだよ。
髪がとても長くて、でも顔ははっきり表情まで見えた。
ぼんやり映っていたのに、表情まではっきり見えたというのは矛盾しているかもしれないけど、マジでそう見えた。
心霊映像などであるような、睨んでいるという表情ではなく、笑っていたんだよ。
しかも楽しそうに。何が楽しいのかは解らないけど。
家族全員、何かに取り憑かれたようにテレビに見入っていた。
5分ほど経ってからだったかな。その女の人が徐々にカメラに近付いて来ている事が判ったのは。
もう全員、顔が真っ青だった。
でもある瞬間、おかしな事に気付いた。
その女の人の前を従弟が通り過ぎた。通り過ぎたはずなんだよ。なのに、女の人はビデオに映ったままだった。
解り難いかもしれないけど、従弟が女の人の前を通り過ぎたら、普通は従弟の影に隠れて女の人は見えなくなるだろ?
でも、女の人はずっと映り続けていた。
その時に少なくとも俺と叔父は気付いた。
ビデオに映っているのではなく、画面に映っているのだ。つまり、そいつは俺達の背後に。
叔父は思わず振り向いたんだろうな。
叔父の悲鳴が聞こえて、俺達は一斉に散り散りに逃げた。
テレビの横がリビングと廊下を繋ぐ扉になっていたのが助かった。後ろを振り向かずに済んだのだから。
外はもう暗かったが、叔父の家の前に全員飛び出した。
みんな顔が真っ青だったが、叔父が一番顔色が悪かった。
親父が叔父に「何が居たんだ?」と聞いても、震えて口を開こうとしない。
問い詰めても結局、叔父は口を開かなかった。
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今となっては、あの現象が何だったのかは判らない。
あのビデオを再び見たが、女の人は映らなかったからだ。
やはり俺達の背後に居たらしいんだな。
しかしあの叔父の怯え方は、女の人を見ただけとは思えなかった。
何故なら、叔父はこれまでも幾度となく心霊現象を体験したらしく、そういうものは全く怖がらないのだ。
その叔父が何故あそこまで怯えたのか、それも今となっては判らない。
叔父はその四日後、風呂場で溺れて亡くなったからだ。
そして一番の疑問は、どうやって女の人はテレビ画面に映ったのか、という事だ。
俺達は全員『テレビの前に』座っていた。つまり、女は俺達に遮られてテレビの画面に映る事は出来ないはずなんだよ。
※
これは四年前、俺の身に起きた実話。
俺は今だにあの女の楽しそうな笑みを忘れる事が出来ない。