昔、俺が社会人一年目の頃に体験した話。
当時は五階建ての団地に一人暮らしをしていた。
周りはとても静かで、俺はその場所をとても気に入っていた。
しかし一つ問題があった。
深夜3時頃になると、尋常じゃない足音で階段を降りて来る者が居た…。
姿を見た訳ではないが、足音の感覚から恐らくまだ小さな子供のような感じがした。
しかもその足音は俺の居る四階のフロアでピタッと止まるのだ。
その時は恐怖感のようなものは全く無く、ただうるさいなあぐらいの感じだった。
足音もそれ一回で聞こえなくなるし、眠いのもありさほど気にしなかった。
※
しかし一週間経っても一向にその足音は消えない。決まって深夜3時頃に、
「ダダダダダダッ」
と物凄い足音で階段を降り、四階でピタッと止まる…。
いい加減ストレスも溜まってきた俺は、向かい側の部屋と五階の住民に確認しようとその日の夕方訪ねてみた。
しかし向かい側のサラリーマン風の男性に聞いても面倒臭そうに、そんな足音は聞いたことないと言われた。
おかしいなと思い五階へ上がると、二部屋は空部屋になっていた。
その当時、幽霊など全く信じない俺は性質の悪い悪戯か、または向かいの人が怪しいなと考えていた。
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そしてその晩も足音は止まず、それから三日目ほど経つと俺のストレスは爆発し、足音が五階から降りて来た時に
「うるさいっ!!」
と大声で叫んでしまったのだ。
するといつものように足音は俺の部屋の前でピタッと止まった。
流石に不信に思い、玄関ドアの覗き穴から確認してみたが誰も居なかった…。
ただその時、全身に寒気が走り、背筋が凍り付いた感覚は今でもはっきり憶えている。
部屋中の明かりを点け、テレビも点け、その日は眠れなかった。
※
そして朝になり、仕事に行こうと階段を降りると二階に住む80歳過ぎくらいのお婆ちゃんに会った。
俺は誰かにこの話を聞いてもらいたいと思い、そのお婆ちゃんに全部話をした。
そして、そのお婆ちゃんの話を聞いて俺は絶句した…。
俺がこの団地に来る20年程前、五階に夫婦二人、子供二人の四人家族が父親の手により、無理心中したと言うのだ…。
その時、母親と姉を殺されたところを見たまだ幼い男の子が、逃げ出す途中に階段で足を踏み外し、四階フロアで頭を強く打ち亡くなったらしい。
しかもその時間が深夜3時頃…。
その話を聞いた時は、恐怖感で本当に気を失いそうになった…。
次の日から会社の同僚の部屋に泊めてもらい、すぐそこから引っ越すことにした。
あの四階の向かい側に住んでいる人、大丈夫かなあ…。