映像製作の専門学校がありまして、私はそこで講師助手のような仕事をしています。
1年生の授業で、
『カメラを渡され、講師が決めたテーマに沿った映像を、次の授業の日までに撮って来る』
というものがあるんです。
それで、その先生が第一回の授業で課題に出すテーマは、いつも同じだったんですよ。
『死んだ街』というテーマなんです。
この授業の狙いは、
『顧客の漠然とした要求に、如何に具体的な映像で答え納得させるか』
というような事を勉強する授業で、今回の『死んだ街』の場合なら、一番ベタなのは寂れて見えるような映像を撮って来れば良い訳です。
でも生徒はみんなまだ学校に入ってから半年程度しか経っていない素人同然の人間ですから、そんな意図はなかなか汲み取れない訳です。
だから、結構変なものをみんな撮って来るんですね。
死んだ虫を撮って来たり、自殺する人の短編ドラマを作ってみたり。
その生徒が撮って来た映像の中に、一つ妙なものが混ざっていた、という話なんです。
※
その映像には『別館』と呼ばれている、うちの学校の敷地内のビルが映っていました。
夕暮れ時に生徒がカメラを持って、そのビルの中を歩きながら、ここで女が自殺して幽霊が云々…という話を延々とするというもの。
まあ何となく、実話怪談もののような、趣のある変な映像だったんです。
オチが結構良く出来ていまして、最上階の教室で怪談話を語り終わった後、カメラが突然アングルを変えて固定され画面の上の方に窓が映るのですが、その窓の外に女が張り付いているんですよ。
窓に手を押し付けるようにして。
要するに『幽霊話をしていたら幽霊が出ちゃった』というオチを付けたのだと思って、感心したんです。
外も暗くなってきていたし、カメラのピントがその女に合っていないから、表情などもちょっとぼけていて分からず、それがまた幽霊っぽくて何とも怖いんですね。
それで次の授業の後に、
「この前のアレ、テーマからは外れてたけど面白かったじゃないか」
などと言って、それを撮った生徒と話したんですよ。
そうして話している内に、妙な事に気付いたんです。
彼は、
「窓の外の女のことは知らない」
と言うんですよ。
「確かにそのビルで怪談話をしながら撮ったのですが、オチの後のその窓が映るカットは、単に撮影を終えてカメラを地面に置いた時に録画スイッチを切り忘れただけ。
それで荷物を片付け終わった時、カメラが回っていることに気付いてカメラを止めたのですが…。
まだ自分は編集機材を使えないし、上から他の映像を被せるのも変だし、だからそのままにして課題提出しちゃっただけです」
と言うんですね。
私はてっきりその生徒が僕を怖がらせようとして、オチの事をはぐらかしているのだと思って、
「あの女の子は彼女?」「あんな高い所の窓の外に立たせたりして、よく怒られなかったなー」
と言って、からかっていたんです。
そうしたら、彼が
「何言ってるんだ!」
と怒り出しまして、一緒にその彼が撮って来た作品を編集室で見ることにしたんです。
それで女が映っているところを見て、私がホラホラと窓の所を示したら、彼は真っ青な顔になり、
「こんなもの撮ってない」「俺は知らない」
と言い、そのまま帰っちゃったんですよ。
そして私は一人編集室に取り残されまして、
「最後まで芸達者な奴だなあ」
とニヤニヤしながら、彼の撮った窓の外の女の映像を見ていたのですが、そこで気付いたんです。
映っている教室の窓の大きさから逆算すると、その女、顔の大きさが70センチくらいある計算になるんです。