サイトアイコン 怖い話や不思議な体験、異世界に行った話まとめ – ミステリー

いざない

cape019

その頃、私は海岸近くの住宅工事を請け負ってました。

季節は7月初旬で、昼休みには海岸で弁当を食うのが日課でした。

初めは一人で食べに行ってましたが、途中から仲良くなった同年代の下請け職人も誘って、一緒に食べに行くようになりました。

いつものように海岸に行くと、普段は人気の無い海岸ですが、その日は10~12歳位の子供が4人程、波打ち際で遊んでました。

ちなみにココの海は遊泳禁止となってはいましたが、私も子供の頃はここで仲間と泳いだりした事もあったので、特に気にもしませんでした。

その日も海岸で弁当を食おうかと思っていたら、A君が「今日は日差しが強くて暑いから、現場内の日陰で食おうぜ」と言ってきました。

まあ、確かにその日は特に陽射しが強くて、外で食うには暑すぎると思って、その場を去りました。

現場内の日陰で弁当を食べていると、何やら外が騒がしい。

パトカーやヘリが飛んでる音も聞こえる。

『何だろか?』と思って、外を見に行こうとAを誘いました。

「あー、俺はやめとく」

私は外が気になって仕方が無いので、Aは置いて、他の職人さん達と一緒に野次馬に行きました。

どうやら人だかりが出来ているのは、いつも私がAと飯を食っていた海岸でした。

既に集まっていた野次馬に話を聞いてみると、海で遊んでいた子供が一人、波に飲まれて行方不明だと。

確かに、さっきまで海岸で遊んでいた子供の数が、一人減っていました。

私は後悔しました。

何時も通りこの海岸で弁当を食べていれば、波に飲まれた子供をいち早く発見できたし、泳ぎにも自信がありましたので、もしかしたら助ける事も出来たのではないかと。

少し後ろめたい気分になって、Aの所まで戻り、Aに海岸での事を話しました。

「今日もあそこで飯食ってたら、俺らが何か出来たかもしれないよな」と私が言うと、Aが「ははは、無理だって。だから俺は、今日あそこで飯食うの嫌だったんよ」

私は意味が解らなかったので、Aに詳しく話を聞いてみると、

「あそこって遊泳禁止なだけあって、色々とある訳で、こんな事言うからって変な目で見ないで欲しいんだけど、色々とある訳よ。

お前はソッチ系には疎いみたいだから、言わないでおいたんだけど、現場の中で弁当食った方が涼しいのに、何でお前は毎日海岸で弁当食べたがったの?」

「そりゃ、海見ながら外で飯食った方が美味いと思って…」

「その割にはお前は、毎日暑い暑い言いながら弁当食って、弁当食い終わったらすぐに事務所戻って涼んでただろ?」

そう言われると確かに、海岸で弁当を食べ始めた切っ掛けは、海を見ながら食べた方が気持ち良いと思ったからですが、2日目以降は、何であんなに日陰も無いクソ暑い場所で、弁当を食い続けてたのか、我ながら不思議に思いました。

「”あいつ等” の狙いは初めからお前で、ず~っとお前は、”あいつ等” に呼ばれてたんだよ」

「???」

Aは初めて現場で私に会った時も、私が海にいる ”あいつ等” から誘われてるのを感じていたらしい。

とは言っても、そんな事を初対面、しかも元請の監督に真顔で話しても馬鹿にされるし、下手したら追い出されるだけなので、毎日弁当に付き合って監視してたらしい。

Aは私が、”あいつ等” に誘われてるのは分かっていたけど、中々その ”あいつ等” の姿を、Aも見ることは出来なかった。

どうやら ”あいつ等” の方は、一方的に私に意識チャンネルみたいな物を合わせ、もっと波際まで引き寄せたがっているらしかったのですが、肝心の私が鈍すぎて手こずってたらしい。

「だから ”あいつ等” は、お前の目の前で、子供を海に引き込もうとした訳だ。

”あいつ等” からしたら、子供の方が頭が固いお前と違って誘い易いしな。

そうすれば、お前が子供を助けに、海に入ってくる事を知ってたんだなぁ。”あいつ等”は。

まあ、俺が邪魔したから、子供が身代わりになっちゃった訳だけど…。

今日は、”あいつ等” とピッタリ波長が合う子供が遊びに来たせいか、今日は俺の目にも、ハッキリ ”あいつ等” が見えたよ。

俺がお前を海岸から連れ戻した時の奴らの雰囲気は、俺もちょっと怖かったよ。

本命のお前を連れ戻されて怒ったのかな(笑)」

と、Aが笑いながら話してくれました。

って…そこまで分かってて、何で遊んでた子供を放置したのかとAに問い質すと、

「お前は誘われてるクセに何も感じないから、そんな事言えるんだよ。

子供等が遊んでた場所は、完全に ”あいつ等” の領域入ってたし、お前だってアレが見えるなら絶対近づけないし、関わり持とうなんて思えないって。

お前を海岸から現場内に連れ戻しただけでも、俺って勇気あるな、エライな~て思ったよ。

本当凄かったよ、奴らの恨めしそうな顔」

Aが言うには、見えない感じない人は、無意識に誘われてる事があると言ってました。

また、誘われてる事にも気が付かないらしい。

だから逆に、見える感じる人は、危ない場所には下手に近づかないらしい。

「お前だって、道路で子供が、刃物持ってる男に追いかけられてたら、身を挺して阻止できるか?

普通出来ないよな。

それは、関わった後の面倒を知ってるからだ。

それと一緒で、俺も見えたからって、人助けするほどお人良しじゃない。

相手が人間なら通報する事はできるだろうけど、相手がこの世の者じゃなかったら、警察も相手してくれないし。

まあ、面倒事に巻き込まれるのは御免だよ。

でも〇〇君(私の名前)とは気が合ったし、知らん顔して何かあっても気分悪いからね」

この水難事故は、夕方のニュースでもちらっと流れました。

私は夜中に気になって、海岸まで車で見に行きました。

まだヘリは海岸沿いを飛び回り、沢山の人が灯りを持って海岸を捜索してました。

自分では「お人良しじゃない」と言っていたAでしたが、彼は去年の秋に、川で溺れてる子供を助けて、自分だけ逝ってしまいました。

二度目は見て見ぬふりは出来なかったのかな…。

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