今から数年前に卒論を書いていた頃、私は工学部の学生だったのですが、実験すら終わっておらず連日実験に明け暮れていました。
卒論の締め切りが迫り、実験の合間に卒論を書き、また実験をしてはそれを書き足していくという、今から考えればぎりぎりの事をしていたと思います。
私の研究室では、ついに私だけ卒論ができていない状況で、かなり焦りがありました。
締め切りの前日になってやっと大筋を書き上げましたが、最後に確認実験が残りました。
明日提出ですので、卒論を清書しながら行いました。
実験は待ち時間が多く(反応に数時間とか)、トータルで一晩かかります。
泊まり込みで実験を行い、その合間に清書を仕上げ、そのまま明日提出するつもりでした。
学科内でも最終日まで卒論が出来上がっていなかったのは私だけのようで、学科棟は私一人だけになりました。
さすがに一人だけになると心細くなりましたが、廊下の明かりも隣の研究室の灯りも点けて行いました。
確か深夜3時頃だったと憶えています。確認実験が終了して、論旨に誤りの無いことが確認できました。
清書していた卒論も大きな変更もないことで、そのまま若干の書き入れをして終了です。
その時、研究室の入り口に私と同輩ぐらいの見知らぬ男性が、こちらを見ていることに気づきました。
学科内の人間なら全員知っていましたが、全く知らない男性でした。
他の学科の人間が誰か知り合いにでも会いに来たのかなと思いました。
目が合ったので「お互い大変だね」と言ったと思います。
※
実はその後どうなったのか記憶にないのです。
どうやら私は確認実験を行った後、机で寝てしまったらしく、その前後のことがはっきりしていません。
ただ彼が青い縦にストライプのシャツを着ていたことは覚えています。
目が覚めたのは、周りがうっすらと明るくなり始めた朝6時ごろでした。
卒論もちゃんと仕上がっており、記憶が曖昧ながらあれからちゃんと仕上げたんだなと思いました。
ところで、いつ寝てしまったんだろうと思いました。知らない人が廊下から覗いていて…。
そこで気が付いたんですが、学科棟の鍵は最終の私が預かっていて、内側から22時頃に閉めたはずなので、誰も入って来られないはずなんです。
怖いと言うより不思議という気持ちしか湧きませんでした。
朝になり、8時頃に研究室に出てきた同輩に話したところ、鍵のかかっていない出入り口から誰か進入してきたんじゃないかと言う話でした。表玄関以外に出入り口はありますし。
博士課程の先輩に話したところ、うちの学科には昔自殺した人間がいたからそいつじゃないかとか言われました。
しかし別に怖い思いをしたわけではありませんので、幽霊とかではないと思いました。
一応調べたところ、昔、本当に自殺した学生がおり、失恋で排ガス自殺をしたとのことでした。
調べたのは地方新聞でしたが、記事の中には “第一発見者が青い服を着た○○さんを発見した” という記述がありました。
私自身全く怖いという思いをしていませんし、彼を見た前後の記憶が実に曖昧で、夢じゃなかったかとの思いもあります。
ひょっとしたら先に以前自殺した学生がいるという噂を聞いており、そのような思いこみをしたのかもしれません。
ただ私自身の中で、未だに一体何だったのか判らない不思議な出来事です。