僕の親友の小学校時分の話。
今から二十年も前のある日。両親が共働きだった彼は、学校から帰ると一人、居間でテレビを見ていた。
しばらくすると玄関の引き戸が開く音がするので、母親が帰ってきたと思った彼は、驚かせてやろうと居間の入口の引違い襖のそばにしゃがみ、足音がよく聞こえるようにと襖に耳を押しつけて母親を待ちかまえた。
足音は玄関を上がり、板敷きの廊下を居間に向かって近づいて来て、彼が身を潜める襖の前に来た。
しかし、その足音は入口まで来たものの、襖を開けようとしない。おかしいと思った彼は外の様子を窺おうと、いっそう強く襖に耳を押しつけた。すると…。
「……ガリ……ガリ……ガリ…」
廊下の向こう側からゆっくりと爪で襖をひっかく音がする。
驚いた彼はしばらくその場で硬直したが意を決して襖を開けると、ものすごい勢いで廊下を玄関に向かって走るハイヒールの音だけがしたそうだ。
その後、彼は自宅で幾度となくその女の幽霊のような存在に悩まされることになる。作り込み一切なしの本当の話。