これは私の友人Aが大学に通うため、世田谷区のアパートに住んでいた時の話です。
そのアパートはいわゆる事故物件で、手首を切っての自殺があったらしいのですが、幽霊なんて信じない彼は家賃の安さに大喜びで契約したそうです。
アパートで独り暮らしを始めたAは、夜中に妙な音を何度が聞きましたが、怖い感じはしなかったと言います。
※
アパートに入居して1週間ほど経った頃、ほろ酔い気分で部屋に帰ったAは何となく「ただいま~」と独り言を言ってみました。
すると、テーブルの隅で「トン」と返事をするように音がしたそうです。
次の日も部屋に帰ると「ただいま~」と言ってみました。
すると、またテーブルの隅で「トン」と答えるように音がします。
気分が良くなったAは、お風呂に入った時に「いるの?」と囁いてみると、お風呂の壁から「トン」と返事がありました。
それから楽しくなったAは、事ある毎に「いるの?」と聞いてみるようになり、その都度、必ず「トン」と返事があったそうです。
何も害は無いし、話し掛けると「トン」と返事をくれるので、きっと良い霊に当たったと思ったそうです。
※
その事を大学の友達に話すと、面白半分に友達がアパートに来るようになったそうです。
Aが友達の前で「今いる?」と聞くと、テーブルや壁から「トン」と返事があり、友達は皆んな驚きました。
「この部屋には座敷童のような霊がいる」と話題になり、一層人の出入りが多くなりました。
Aはこの部屋を選んだ事は正解だったと確信したと言います。
※
そんなある日、話を聞きつけた女友達が部屋に行きたいと言うので、Aは大喜びで女友達Kを部屋に招待しました。
Aがいつものように玄関を開け「ただいま~」と言っても、何故か返事がありません。
『あれ?』と思いましたが、Aは「取り敢えず、上がってよ!」とKを部屋に招き入れました。
そしてビールを用意しテーブルに座り、「今いる?」と霊に問い掛けました。
その時、突然「ガッシャーーン!!」とガラステーブルが粉々に砕けたそうです。
同時に「キャーーッ」というKの絶叫が聞こえ、何があったのか分からず驚いていると、Kの顔はガラステーブルの破片で血だらけになっていました。
更に部屋中が大地震のようにグラグラと揺れ、棚の物が全て落ちてきました。
AとKは慌てて部屋から逃げ出し救急車を呼び、Kは病院に運ばれました。
※
Aの部屋は、長く付き合っていた彼氏を他の女に奪われた女性が、手首を切って自殺した部屋だったという事です。
Aは恐怖のあまり、もうその部屋には戻れないので親を呼び、アパートの処理をしてもらったそうです。
事故物件には二度と手を出さないと言っていました。