伯父に聞いた戦時中の話です。
実家は長崎にあるのですが、伯父は原爆が投下された時には少し離れた市の親戚の家に居たので無事でした。
戦争が終わり、暫くして実家に戻ると、家の裏にあった井戸が埋め立てられていたそうです。
何故埋めたのかと訊くと、被爆した方が何人か井戸に落ち、近所のお坊さんを呼んでお経を上げてもらってから埋めたそうです。
それからは毎朝、井戸のあった場所にお水をかけるのが実家の習慣になりました。
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そして十数年が経ち、少し生活に余裕が出てきたので、お正月にお酒をかけてあげました。
夜になって外のトイレへ行こうとした伯父が、井戸のあった場所を見ると、そこに赤ん坊を抱いた女性が立っていました。
少し離れた位置に居たのですが、その女性が
「お酒ではなくお水をください…」
と言ったのがはっきり聞こえました。
伯父が慌てて水を汲んで戻って来ると、既にその女性は居なかったそうです。