不思議な体験や洒落にならない怖い話まとめ – ミステリー

引っ掻く音

アパート(フリー写真)

大学時代にアパートで一人暮らしをすることになった。

そのアパートは、太陽の光が当たる二階の部屋と、駐車場に近い一階の部屋が空いていて、俺は駐車場が近い一階の部屋に住むことにした。

管理人に「本当にここでいいの? 上(二階)も空いてるよ」と言われたが、俺は別にどちらでも良かったので、管理人の言葉に耳を貸さずに一階に決めた。

部屋自体は三部屋もあって、家賃5万円にしては凄く良い部屋で、よくこんな物件が空いていたなと喜びに耽っていた。

部屋に荷物を持ち込み、本格的に住み始めてから気付いたのだが、部屋のある壁に引っ掻き傷が沢山付いていた。

そんなことを気にせず暮らしていてある日、部屋の引っ掻き傷が気になり、その傷のある壁の下のカーペットを捲ってみた…。

すると一枚の写真が出てきて、そこにはカップルであろう若い二人が写っていた。

それと一緒に、何故か凄い量の茶色い髪の毛が出てきた。

見つけた時は気持ちが悪くて、何で管理人は俺が住む前に掃除しておかないんだと腹を立てた。

そして、この写真を見つけてから奇妙な事が起こり始めた。

夜中にカリカリカリという音がする…。

結構古めのアパートだったので、俺はネズミか何かがいるのだろうと気にしなかったが、その音は毎晩聞こえていた。

ある日、夜中にトイレに行きたくなって起き上がった。

カリカリカリという音は引っ掻き傷の近くから聞こえるようだった。

俺はトイレに行くついでに見てみた。

そこには何も無く、突然音が消えた。

『はあ?』と思いトイレに行く。

トイレに入っていると、またカリカリカリという音が聞こえてくる。

俺はネズミだと思い、トイレから出てまた見てみた。

するとまた音が鳴り止んだ。

何か気持ち悪くなって、全身に寒気が走ったのを覚えている。

そして寝室に向いて歩き出した。

引っ掻き傷の壁を通り過ぎ、何故か振り返ろうとした時、部屋は電気を消していて暗かったのだが、床を一直線に黒く円い影が走って行ったのが見えた。

その瞬間『振り返ったらダメだ』と何者かに言われたような感じがした。

そのせいでまた全身に寒気がした。

すると音がまたし始めた。

俺は振り向いてしまった。

凄く怯えた顔をした白い女の人が、何かから逃げているような感じで、後ろ手のまま爪で壁を引っ掻いていた。

俺は『何でこんなもんが本当に見えるんだ?』と理解できないまま、そこに立ち尽くした。

その女は数秒壁を引っ掻き、煙が消えるように突然消えて行った。

俺は見てしまった。変なものを見てしまった。生まれて初めて見た。

興奮しまくっていたが、その夜は気味が悪く眠れなかった。

このことを管理人に話してみたところ、ドメステックバイオレンス(夫が妻に暴力を振るう)という問題を抱えた家族が前に住んでいたらしい。

部屋から出てきた写真を見せようとしたが、何故か見つからなかった。

俺はその後も2週間住み続けたが、カリカリカリという音は毎日のように聞こえてきて、怖くて眠れない日が続いた。

その頃から寝不足なども伴い、学校生活が上手く行かなくなってきたので休学し、実家に帰ることにした。

それと共にアパートは住むのをやめ、実家から学校に通うようになった。

怪奇現象はそれ以降は起こっていないが、あのアパートの前を通ると寒気がする。

写真は結局行方不明で、カーペットの下にあった茶色の髪の毛がどうなったかなどは全然判らないが、あの部屋はそれから一年経っても空いたままだった。

これが大学時代に体験した不思議な出来事。

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