暑い季節になり去年のことを思い出してきたので、ここで去年の暑い季節にあったことを書いてみたいと思う。
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去年の夏、私は彼女と友人と友人の彼女の4人でロッジを借り、余暇を楽しむ計画を立てました。
当日は幸い天気も良く、途中に昼食を挟んだりお酒などを買い込んだりしながら、車でロッジを目指しました。
大きな渋滞などもなく、無事にロッジに着きました。
ロッジの近くには小さな川があり遊べそうだったので、着いて早々荷物だけロッジに置き、近くの川を目指しました。
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もう昼を回って15時くらいになっていたので、それほど長い時間は遊べませんでしたが、和気藹々と一時間ほど川で遊んでいました。
その時、友人が山の向こうを指差し、
「あれはホテルか何かか?」
と呟きました。
そこには確かに、何だか寂しい雰囲気のホテルのような建物がありました。
しかし私がロッジを予約する時に調べた限りでは、周辺にホテルのような施設は無かったはずです。
その後、4人で相談し夕食後にそこへ探索に行ってみることにしました。
夕飯の材料は買い込んでいたのでロッジで作り、食べ終わった時には21時くらいになっていました。
お酒は帰って来てからゆっくり飲もうということになり、21時半頃にそのホテルのような建物を目指して車で出発しました。
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当然、道など分からないので適当にあの建物の方へ向かっている道を探しながら適当に走って行きました。
車中、私以外の3人は、
「潰れて廃墟になったホテルとかだとどうする?」「入る?」「何か出るんじゃね?」
などと盛り上がっていましたが、私には調べ漏れたホテルがあるだけだろうと思えました。
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街灯なども無い道をひたすら車で進むこと30分…。
ガラスが割れ、蔓が巻き付き、外壁にも所々ヒビの入った、外から見ても一目で廃墟と分かるその異様な建物に到着しました。
看板なども外されていたため、名称は判りません。
もうこの時点で私たち4人は大盛り上がり。
「やばい」「絶対何か出そう」「入ってみようぜ!」「いや、ガラスも割れてるし明かりも点かないやろうし、危ないよー」
と、ギャーギャー騒いでいました。
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その時、友人の彼女がホテルの一角を指差し、
「ちょっと、あれ何?」
と言いました。
全員そちらの方を向き、それまで騒いでいたのが嘘のように一斉に静かになりました。恥ずかしながら私も軽く身震いしました。
懐中電灯で照らされたその指の先の窓には、白いワンピースのようなものが揺れていました。
ゆらゆらゆらゆらと…。
数秒の間、沈黙が続きましたが、友人が
「うおーーーこわっ。何あれ。ちょ、あそこ行ってみようぜ」
などと言い出しました。
彼女たち2人は「さすがに嫌だ」「早く帰ろう」と拒否をしました。
しかし私は何か異様な雰囲気のするその建物に入ってみたくなり、結局私と友人の2人が中に入り、彼女たち2人は外で待っていることになりました。
冷静に考えれば単に窓に掛けてある服が風で揺れているだけだろうとも思えましたし、何かあればそれはそれで面白そうだったので…。
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中に入ると、それほど広くはないもののロビーがあり、ホテルであることが分かりました。
目指す窓は2階の端の部屋だったので、ロビーの横にある階段を昇って行きました。
ホテルの中は埃っぽく、蜘蛛の巣も所々にありました。
廊下なども、動物でも入り込んでいるのか土や泥が付いて汚れていました。
しかし元々霊感が無いせいか動物も含めて何も出ず、目的の窓のありそうな部屋まで辿り着きました。
部屋の中を懐中電灯で照らすと、予想通り白いワンピースがカーテンレールに掛かっていました。
ただ、その時は不思議と全く揺れていませんでした。
部屋の中にも見る限りそれ以外には何も無さそうだったので、私と友人は部屋には入らずそのまま入り口へ戻りました。
ただ戻っている途中、何かぞくりと背中に震えが走ったような気はします。
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途中に昇って来た階段とは別の階段があったのでそれを使い、1階に降りて入り口を目指していると、急に入り口の方から足音が聞こえました。
そして彼女たちが私と友人の名前を叫んでいるのが聞こえました。
何かあったのかと思い、
「おーい、こっちこっち」
と言いながら入り口のロビーまで来ると、私たちが最初に昇った階段から彼女たちが
「早く外に出て!」
と叫びながらドタドタドタと降りて来ました。
呆気に取られている私と友人の手を取り、彼女たちにそのまま外に引っ張り出されました。
「どうしたん?」
と聞いたのですが、取り敢えず早く車を出せと急かすので只事ではないと思い、すぐに車に乗り込みそのままホテルを後にしました。
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ロッジに戻る車中、途中何があったのか話を聞いてみると…。
私たちがホテルの中に入っている間、ボーッと2人でホテルと眺めていると、そのワンピースのある部屋の中から懐中電灯のような光が見え、暫くすると消えた。
もちろんそれは私と友人の懐中電灯です。
彼女たちもそう思ったそうですが、問題はその後で…。
懐中電灯の光が消えた後、暫くすると例のワンピースが急にスッと部屋の奥に移動して行ったのだそうです。
流石にこれは異常事態だと思い、私たちを連れ戻しにホテルの中に飛び込んだ。
そして2階に上がり私たちの名前を叫んでいると、遠くから
「イヒイヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒッ」
という声が聞こえてきたそうです。
その直後、1階から私たちの声が聞こえた、とのことでした。
また私の彼女には見えませんでしたが、友人の彼女には、ボサボサの長い髪をした頭がワンピースの上から出ていたのも見えたそうです。
流石に私と友人は絶句してしまい、妙な寒気と異常な喉の渇きを覚えながら、その後は誰も喋らずにひたすらロッジを目指しました。
以上、去年の暑い日の出来事でした。