不思議な体験や洒落にならない怖い話まとめ – ミステリー

廃ホテルで消えた記憶

廃ホテル(フリー写真)

俺の実体験で、忘れようにも忘れられない話があります。

今から四年前の夏、友人のNと二人でY県へ車でキャンプに行った。

男二人だし、どうせやるなら本格的なキャンプにしようということで、少し山奥にある河原にテントを張った。

清流で魚も多く獲れそうなので二人で釣りをしていると、同じく釣りに来た現地人のおじさんと仲良くなって色々話した。

暫くするとおじさんは、そこより少し離れたところにある廃墟らしき建物を指差し、

「あそこはちょっと前まで、観光客向けのホテルだったんだけどな。客足がさっぱりで潰れちまって、今では荒れ放題だよ。

でもベットなんかが置きっ放しになっているから、このシーズンになるとよく若いカップルがいやらしいことやりに来るんだよ。

車でちょっと上に行ったところには、オートキャンプ場があるからなあ」

日が暮れる頃、そのおじさんは帰って行った。

俺達も火を熾して、釣った魚と町で買い込んで来た焼肉などを食べた。

その後、片付けを済ませて暫くビールを飲みながら取り留めもない話をしていた。

午前0時半を少し回った頃、Nがある提案をした。

「なあ、昼間のおっさんが言っていたホテル跡の廃墟。ちょっと行ってみねえか」

俺は『男二人でそんなところに行ってどうするんだ?』と思ったが、Nの言おうとしていることがすぐ解った。

おじさんが言っていた『このシーズンによく、いやらしいことしに来る若いカップルが~』ということである。

冷静に考えると、こんなことでわざわざ行こうなんて考えはしないものだが…。

この時は多少の酒も入っていたこともあってスケベ心が働き、

「よし行こう行こう。運が良ければ覗けるかも…」

ということになり、車を走らせホテル跡の廃墟へ向かった。

建物から少し離れた場所に車を停め、徒歩でゆっくりと近付いて行く。

近付くにつれ建物の外観が見えてきた。

三階建ての割と小さな建物で、建物とその周辺は星の明かりのみが頼りの暗闇。うるさい虫の鳴き声のみが聞こえてくる。

何だか俺とNはすっかり興醒めてしまい、

「何か俺たちアホみたいだな…」

と話していた時、遠くからスカートを履いた女の人が現れた。

その女の人は建物の外側に取り付けられた非常階段らしき階段を、歩いて登ると言うよりも、エスカレーターにでも乗っているかのようにスーッと登って行き、扉の外れた入り口から内部に姿を消した。

俺たちは少し離れたところで見ていたのだが、Nは興奮した声で

「おい、マジで見れんじゃねーの。そっと行ってみようぜ」

などと言うのだが、俺はその女の人のただならぬ気配にすっかり恐くなってしまい、

「もう帰ろう」

と弱音を吐いた。

しかしNは聞かず、俺たちは結局その非常階段の下まで行った。

Nは階段を登って様子を見に行き、何か面白いものが見られそうだったら階段下で待機している俺に合図し、俺もその後を追うということになった。

階段下まで来ると俺は完全にびびってしまい、Nが忍び足で階段を登って行く後ろ姿を眺めていた。

階段を昇り切って、入り口から様子を窺うN。

Nはこちらに顔を向けると声を落とし、

「おい。何か黄色い白衣みたいなものを着た奴が向こうの部屋に見えるぞ。何だろ?」

と言うと、建物内部に足を踏み入れた。

……。

…と、ここまでで俺の記憶はブッツリと途切れている。

気が付くと俺は何故か一人で、河原のテントの中で寝ていた。

一体どういう状況なのかが全く解らなかった。

外に出てみると、車もちゃんと戻って来ている。しかしNの姿だけが見当たらない。

落ち着いて少し前までのことを整理して考えてみたが、どうしてもNが建物に足を踏み入れた以降のことが思い出せない。

と言うより、まるで何も無かったかのように、きれいに記憶が消えている。

酒は入っていたが、記憶が飛ぶほど飲んではいない。第一、そこまでの記憶は鮮明に残っているのだ。

時計を見ると午前1時20分。

Nがどこに行ったのかも判らず、恐くて眠れないまま、テントの中で朝まで震えていた。

テントの中にはNの荷物がそのまま残っている。

俺は恐かったが、明るい昼間ならと思い、勇気を振り絞って昨日のホテル跡へ行った。

しかし建物内部とその周辺のどこにもNの姿は無かった。

俺はどうして良いか分からずに、仕方無く一人で東京へ戻った。

友人やNの実家にも連絡したがどこにもNは居らず、ついにはY県の警察にも連絡した。

俺も警察にかなりの質問をされたが、何を訊かれてもどう答えれば良いか分からなかった。

多分警察は、俺がNを殺害したのではないかという線も考えたのだろうが、証拠らしいものも何も掴めなかったのだろう。

結局、Nは自分から蒸発したとして、有耶無耶に片付けられるような感じで終わってしまった。

あれから四年、現在もNは行方不明のままである。

これを読んでいる皆さんは大して恐くないかもしれないでしょうが、体験した俺にとっては思い出しただけでも泣きそうになるほど恐ろしい事件です。

一体何が起こったのでしょうか。

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