深夜のテレビ番組で、その日の企画は怪談だったのですが、その話の中の一つに映画監督のH氏にまつわる話がありました。
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ある時、H氏はスランプに陥っていました。
いくら悩んでも次回作のアイデアが全く浮かんできませんでした。
そんな中、自分宛てのファンレターの中に一つだけ目に留まった物がありました。
その内容は、「H氏の泊まっているホテルからこういう道順に進んで行けば石畳に出るから、その先に居る子供の後に着いて行けば、貴方の映画は完成する」といったものでした。
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H氏は、その手紙の指示に従いました。
するとその手紙の内容通りの場所に石畳があり、その先には子供も居ました。
子供は奥のアパートの一室に入って行きました。
中に入るのに戸惑ったH氏は、窓の隙間からその部屋を覗いて見ました。
そこには子供の姿は無く、バスローブを着た女性が髪を梳かしていました。
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暫くするとその女性の後ろから黒い影が現れ、刃物でその女性に襲い掛かりました。
それを見ていたH氏は急いで警察に連絡し、駆け付けた警官と共に部屋に入りました。
しかし部屋の中には誰も居らず、争った形跡もありませんでした。
警官はH氏に「映画の制作で疲れている所為で、何か見間違えたんじゃないですか?」と言い、その場を去って行きました。
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数ヶ月後、H氏の映画は無事完成し、それは見事大ヒットしました。
その映画のヒットを祝うパーティーの最中に、H氏宛てのプレゼントが届きました。
何だろうと思い開けてみると、それは一本の映画のフィルムでした。
「早速、私に対する挑戦か?」と、その場に居た人達と一緒にそれを見てみました。
そこにはH氏の姿が映っていました。
『こんな映画に出た覚えはないぞ』と思いながら見ていると「はっ」と気が付きました。
「これは、ひょっとして数ヶ月前の…。そうか、まんまと騙されたという事か」
あの日の事を皆んなに話し、「監督の私が撮られている事に気が付かないとは」と笑っていた時、H氏に電話が掛かってきました。
「はい、Hですが」
「こちら○○○警察です。実はあの後、例のアパートを調べた結果、あの部屋の床下から身元不明の女性の白骨死体が出たのですが…」