私の友達Aさんが、小学校6年生の時に体験した話である。
休み時間、彼女は友達と一緒にトイレでお喋りをしていた。
すると突然トイレの入口が開けられ、一人の少女が飛びこんで来た。
知っている子だった。
彼女は咄嗟に掃除用具入れの扉を開け、
「早く、こっち、こっち」
と、少女に用具入れの中に入るよう促した。
彼女と友達は、少女が追いかけっこの末トイレに逃げ込んで来たと思い、かくまおうと思ったのだ。
案の定、少女は迷うこと無く掃除用具入れの中に飛び込んで行った。
彼女たちは、少女のために平静を装い追っ手を待った。
※
しかしやって来るはずの追っ手は、いつまで経ってもやって来ない。
そのうち悪戯好きのAさんは、少女の入った用具入れの扉に寄りかかり、彼女が中から出られないよう足を踏ん張った。
用具入れの扉はトイレの扉とは反対に、通路側に開けなければ開かない。
そのうち閉じ込められた少女はそれに気付いたのか、中から扉を開けようと内側から凄い力で押し始めた。
彼女は足を突っ張り、扉を開けさせないよう必死に頑張った。
彼女の友達も彼女を手伝い、一緒に扉を押さえた。
「ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!」
突然、少女が激しく扉を叩き始めた。
それは、閉じ込められた少女が中から必死に叩いているものだった。
「ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!」
しかしAさんと友達は怯む事なく、一層足を踏ん張り扉を死守した。
扉は暫くの間、激しく叩かれていたが、そのうち
「ドン!…ドン!…ドン!……ドン!………」
と、次第に扉を叩く力が弱くなり、ついには何の音もしなくなった。
しかし、Aさんはやめることなく踏ん張り続けていた。
「ねぇ、Aちゃん。もう、やめてあげようよ。きっと中で泣いてるよ!」
さっきまで彼女を手伝っていた友達が彼女に言った。
「そうよ!そうよ!可愛そうだから、やめなさいよ!」
と、トイレの中に居た他の女の子たちもそう言い始め、あっと言う前にトイレの中の数人の少女が彼女を取り囲んだ。
こうなると多勢に無勢である。
彼女は仕方が無く、しぶしぶ扉の前から離れた。
しかし、いつまで経っても少女が出て来る気配は無い。
周りの女の子が不安な顔をし、Aさんに扉を開けるよう目配せをした。
「んー。ごめんね。いじけてないで出ておいでよ」
仕方なくAさんは少女に声を掛けながら、用具入れの扉を開けた。
「………………………!!」
用具入れの中には誰も居なかった。
抜け場所などどこにも無いのに、少女はそこから消えていた。
Aさんを含め、トイレの中に居た女の子は全員大パニックに陥った。
※
この話は全校に広がり、同様の話も他からも出たりするなど大騒ぎになり、この件で全校集会まで開かれる事態となった。
「確かにあの子は知っている子だったけど、彼女の名前や学年、クラスはどうしても思い出せないの…」
と十数年経った今も彼女は言う。