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百物語 ― 編集部で見たもの

ゲームソフト

昔、ゲーム雑誌の編集部で働いていた。

毎日、膨大なゲームと向き合う日々。取材、レビュー、裏技検証……時間に追われる生活の中で、私は次第に「ゲームを遊ぶこと」そのものに楽しみを感じなくなっていた。

それでも、当時の編集部には活気があり、どんなに過酷なスケジュールでも、誰もが笑いながら深夜まで働いていた。

今になって振り返ると、あの頃の編集部には――人ならざる何かが紛れ込んでいたのかもしれない。

その日、私は“裏技特集号”の編集を任されていた。

掲載される裏技は、最新の大作から、すでに生産終了した古い機種のソフトまで幅広い。

そして、読者からの質問に直接答えるのも、新人編集である私の仕事だった。

電話で「この技ができません」「バグではないか」などの問い合わせを受けると、社内で実際に確認し、誌面の誤りがないかを検証する。

その日も一本、妙な電話がかかってきた。

『セガサターンの「百物語」で、101話目が見られないんです』

“101話目”。確かにそのゲームには、100話すべてをクリアすると最後に“おまけの話”が出現するという噂があった。

私はマニュアルを開き、
「仕様上、100話すべてを見終えると自動的に再生されるはずです」と答えた。

だが、相手は続けた。

『でも、何度やっても出ないんです。初期版だけの特典じゃないんですか?』

私は一応確認しておきますと伝え、電話を切った。

相手は最後にこう言った。
『明日の16時にもう一度電話します。時間がないので、それまでに調べてください』

その夜、編集部は校了作業で朝まで電気が消えなかった。

私はゲーム機をデスクの横に置き、女の子のスタッフ数人と交代で「百物語」をプレイすることにした。

話をひとつ見るたびに蝋燭が一本消える――シンプルな演出だが、深夜の編集室では妙に不気味に感じた。

イヤホン越しに、語り手の稲川氏の声が耳元に低く響く。

「……それでは……はじめましょうか」

部屋の蛍光灯の光が、妙に冷たく感じた。

深夜4時を回る頃、私は70話ほど進めていた。

周囲のスタッフは仮眠室や床で眠ってしまい、編集部にはキーボードを打つ音だけが響いている。

私はうつらうつらしながらボタンを押し続けていた。

ふと、音声が途切れた。

画面を見上げると、そこには――老婆の顔が映っていた。

画面いっぱいに、顔の下半分が歪んだ老婆。

目はない。口は、ひきつるように笑っている。

フリーズかと思ったが、画面の下半分だけが震え、老婆の口が小刻みに開閉していた。

そして、イヤホンから同じ言葉が繰り返された。

「……ジーッと見ているんですよ……ジーッと見ているんですよ……」

私は電源を切ろうと手を伸ばした。

その瞬間、イヤホンの音が変わった。

クラクション、雷、風、カラスの声、すすり泣き、そして――少女の笑い声。

それらが同時に鳴り響き、音の洪水の中で老婆の顔が崩れ落ちるように歪んでいった。

そして、最後に男の声がした。

「……遅ぇよ」

私は反射的にスイッチを切った。

隣で眠っていた同僚を叩き起こし、ゲームを代わってもらった。

「怖いから続きやってくれ」

彼は呆れた顔で笑い、コントローラーを手に取ったが、数分後には顔をしかめて戻ってきた。

「データ、全部消えてるぞ」

見れば、セーブデータの名前欄には、こう表示されていた。

【ギギギギギギギギ】

私は震える手で、そのデータを削除した。

翌日、バックアップデータを使って別のスタッフが検証したところ、101話目は普通に再生された。

つまり、単なる読み込みエラー。

そう結論づけられたが、私はあの老婆の顔を今も忘れられない。

しかも、あの夜以降、編集部では奇妙な現象が立て続けに起きた。

突然モニタが点いたり、印刷機が勝手に動いたり。

「深夜になると、もう一人いる気がする」――そう言って、辞めていった同僚もいた。

ゲーム開発や雑誌編集という仕事は、人の想念がこもりやすいという。

徹夜、緊張、熱意、そして執念。

そういったものが積み重なる場所には、現実と虚構の境目が曖昧になる瞬間がある。

もしかすると、あの老婆も――誰かが作った“物語”を越えて、こちらの世界を覗いてしまったのかもしれない。

「……ジーッと見ているんですよ……」

あの声が、今もイヤホンの奥で響いている気がする。

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