私が小学生の頃の話です。
小さい頃にお世話になった近所のお婆ちゃんが倒れて、寝たきりになってしまいました。
一人暮らしで、親族も居なかったようです。
当時、よく古い遊びを教えてもらったり、家に行ってはお菓子をもらったり、ベーゴマなどを教えてもらっていました。
しかしもう倒れてしまったので、教えてもらう事が出来ません。
それがどうしても嫌で、治るように治るようにと、一日おきにお見舞いに行っていました。
しかし、二ヶ月ほど経っても治りませんでした。
※
そしてある日、いつも通りお見舞いに行くと、お婆ちゃんが寝たまま目を開けて、何かをブツブツと言っていました。
「どうしたん?」
と聞くと、
「えっちゃん、たろちゃん、さっちゃん、じゅんちゃん…」
と繰り返し言っていました。
『えっちゃん』『たろちゃん』『さっちゃん』は私の友達です。
最後の『じゅんちゃん』は私の名前です。
それに驚いて、何だか怖くなってしまいました。
何故怖くなったのかは分かりませんが、今思うと罪悪感があります。
私はその日から、怖くてお見舞いには行けなくなりました。
※
暫く経ったある日、友達のえっちゃんが、近所の川で溺れて亡くなりました。
私は何故か『お婆ちゃんにも報告しなきゃ』と思い、久々にお婆ちゃんのお見舞いに行きました。
するとちょうどお医者さんが来ていて、帰るところでした。
私はお医者さんが帰るのを待ち、お婆ちゃんに会いました。
お婆ちゃんはまだブツブツと言っています。
でも何故か違和感を覚え、耳を澄ますと、
「たろちゃん、さっちゃん、じゅんちゃん…」
えっちゃんが居ない!!何で!? 何で知っているの!?
そこで私が、
「何でえっちゃんが居なくなったの知ってるの?」
と聞いても、お婆ちゃんは
「たろちゃん、さっちゃん、じゅんちゃん…」
と繰り返すばかりでした。
何だか気味が悪くなった私は、早々に家に帰りました。
※
でも暫くすると気になり始め、もう一度お婆ちゃんのお見舞いに行ってみました。
すると今度は、
「さっちゃん、じゅんちゃん…」
と繰り返しています。
そこで私は、
「たろちゃんは?」
と聞くと、お婆ちゃんがこう言いました。
「知らん…」
どうせ『さっちゃん、じゅんちゃん…』と繰り返すのだと予想していた私は、その答えにかなり驚きました。
でも、その後はまた繰り返すばかりでしたので、家に帰りました。
※
家に着くと、お母さんが慌てて私にこう言いました。
「兵庫に引っ越したたろちゃんが亡くなったみたい。
…お母さんは明日お葬式に行って来るけど、一緒に行く?」
お母さんとお葬式に行き、暫く経ったある日、お婆ちゃんも亡くなりました。
酷いかもしれませんが、人が死んでこれだけ安心したのは初めてでした。
※
現在、私もさっちゃんも元気です。
でも、お婆ちゃんが死ぬのがもう少し遅かったら、さっちゃんも私も死んでいたかもしれません。
ただの偶然かもしれませんが、私が体験した一番怖い出来事です。