霊感がある知人の話。彼女曰く、霊感というのは遺伝的なものらしい。
彼女の母方の家系では、稀に霊感を持つ女が生まれるのだと言う。
彼女が子供の頃の事、母方の祖父の初盆で本家に帰省した時の事だそうだ。
居間の座敷の片隅に一人の女性が座っていたと言う。
親戚の伯母さんかと思ったが、これまで見かけた事は無かった。
彼女の両親も、親戚の人も、従姉妹も、その女性とは話をしないのでおかしいなと思いつつも、彼女はその女性が気になりチラチラと見ていたそうだ。
そんな彼女に気付いた祖母が彼女を自室に呼び、話をしてくれた。
母や叔母、そして従姉妹達には見えないようだが、祖母にもその女性が見えるという事。
その女性はもはや生きてはいない人である事。
これからの人生、他の人には見えないが彼女だけには見えるモノが現れるが、そのようなモノ達は決して彼女に害を与える事は無いので心配はいらない。
見えぬ振りをしていたらいつの間にかいなくなってしまうと言う事。
そして決して話しかけてはならないと言う事。
そんな見える者だけが知っておけば良い事を話してもらったと言う。
※
夕食を終え、男達がほろ酔いで従姉妹達と花火を、女たちは台所で夕食の後片付け、居間に彼女とその女性だけとなった時…。
女性は人を探すかの様にキョロキョロしていたので、彼女は思わず
「おばあちゃんを探しているの?」
と声を掛けてしまった。
女性は彼女に向き直ると、微笑みながら無言で僅かに頷いた。
「おばあちゃんは台所よ。洗い物をしているの」
女性は腰を浮かし、台所の方をちらりと見ると再び彼女に向き直り、洋服のポケットからお菓子のようなものを取り出し、これをあげましょうという仕草をした。
彼女はその時、全く怖くはなかったと言う。
と言うのも、母より少し年上だろうか…その女性は綺麗な人で、とても優しそうだったと言う。
※
女性からお菓子を貰ったところまでは覚えていたが、その次に彼女が気付いた時には、親戚一同が不安そうに彼女を見ていたと言う。
詳しく事情を聞くと、祖母が井戸に何か大きなものが落ちた音を聞いたので不振に思い覗いてみると、彼女の足が水面から突き出されていたのが見えたと言う。
慌てて皆を呼び、男達が彼女を井戸から引き上げ水を吐かせたところだったそうだ。
言われるように彼女は全身がずぶ濡れになっていたそうだ。
※
彼女が大人になり、世の中の良い事と悪い事、そして人を許せる余裕をほんの少し持てるようになった頃、祖母があの時の事情を説明してくれたそうだ。
あの女性は祖母の息子、つまり母の兄の浮気相手であったらしい。
伯父に捨てられた女性は自殺してしまったそうだ。
祖母に見えた時には女性からは悪い意識は感じなかったと言う。
だから祖母は無視をしていたし、彼女にも警告は与えなかったと言う。
「あの人はただ、あたしの息子に会ったら静かに消えるつもりだったんだと思うんだよ。
それが息子は妻子と楽しそうにしていた。悲しかったんだろうね…。
出来心でその場に一人でいたお前を井戸に突き落としたんだね…。
関係のないお前は、とばっちりを受けて面白くは無かっただろうが、許してやっておくれ…。
本当なら、うちの息子もあたしも、あの人に呪い殺されても文句は言えない立場なんだよ…」
と、彼女の祖母は頭を下げたと言う。