彼は大学生時代にバンドを組んでいた。
担当がボーカルだったということもあり、女の子からも相当モテていた。
放って置いてもモテるものだから、かなり奔放に遊んでいたのだという。
ある日、付き合っている彼女から突然切り出された。
「子供が出来た」と。
若さゆえ未熟な彼は「育てられないから堕ろしてくれ」と平然と言った。
そのまま彼女と別れて数ヶ月が経ったが、その後どうなったのかも全く気にしていなかった。
そんなある日、いつものようにバイトから深夜に帰宅し、炬燵に入ってコンビニで買ってきた弁当を食べていた。
すると炬燵の中から「みゃうー」と猫の鳴き声がする。彼は猫を飼っていた。
猫が炬燵に入り込んでいることはよくあるので、気にせずに食事を続けた。
すると猫が炬燵の中で、もがきながら彼の足の上をよじ登ってくる。気にせずにいた。
「みゃうー」
猫が鳴く。
あれ?
ふと気になった。
何だか少し雰囲気が違う。
「みゃうー」
また、鳴く。
よく聞くとやはり違う。
「あうー」
ん? 猫ではない?
彼は炬燵の中に手を突っ込み、猫を触ってみた。ヌメっとした感触があった。濡れている。
炬燵から手を出してみると、彼の手は血で真っ赤だった。
驚いて炬燵をはねあげると、血だらけの赤ん坊が黒目だけの目でこっちを見ていたのだ。
彼はそのまま気を失った。
気がつくと朝になっていた。見ると、弁当が手つかずで残っている。
きっと疲れていたから寝てしまい、夢でもみていたのだろう、彼はそう解釈した。
顔を洗おうと洗面所に向かう。しかし、鏡に映った自分を見て愕然となった。
彼が着ていたトレーナーや顔中に、小さな血の手形がべっとりと付いていたのだ。