ある山中に、周りと異なって木が生えていない、少し開けた場所があります。
昔はそこにあるお寺が建っていたそうです。
その山は山菜が豊富に自生していて、地元の人は秋の実りの恩恵を受けていました。
しかし、ある一定のエリアまでしか入ろうとはしませんでした。
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それを聞きつけたアウトドアやサバイバル好きの集まり4、5人は、秋の味覚を楽しみながらキャンプを楽しむつもりで山に入り、そのエリアを越えた場所まで入り込みました。
元々地元で集合して一泊していた彼らは、地元住民からそのエリアに入らないように忠告を受けていましたが、山菜が豊富に自生しているのを見て、その忠告のことを忘れてしまいました。
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空が雲で覆われて薄暗くなった頃、そのメンバーの一人が戻って来ました。
どうやら、前泊した宿にキャンプ道具の一部を忘れて来たそうです。
それを預かっていた宿を経営しているおばあさんは、
「激しい雨が降りそうだから、戻ってきたほうが良いよ。テントじゃ耐えられねぇだろう」と戻って来た彼に言うと、
「大丈夫、山の中に古びたお寺があって、そこに寝泊りするから」と返しました。
テントを張れる場所を探していたら偶然にも開けた場所があり、そのお寺を見つけたのだとか。
雨風をしのげるし、その時期は夜もまだそこまで冷えていなかったので、雰囲気を味わう意味も込めてそこに寝泊りすることを決めました。
それを聞いた途端、そのおばあさんは血相を変えて「今すぐ連れ戻さねぇと!」と大声で叫びました。
彼は意味が解らず、その意味を問いかけようとすると、急に「ザーッ!!」と突然大雨が降り出しました。
天気予報では雨が降るなんて言っていなかったのですが、これでは山に入ることも困難です。
もう一泊できるか聞こうとしたが、おばあさんは慌てながらどこかに連絡を取っていました。
それが終わると、「あんたはここから出ちゃいかんよ。お金はいらないから」と言ってくれました。
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雨の中、宿の晩御飯を食べていると、突然「ドカーン!」という爆発音に似た音が響きました。
どうやら雷の音、それもかなり近くに落ちたようです。
すると、キャンプをしていた山の一部が少し明るくなっていました。
雨が止んでいたので、それなりにはっきりと見えました。
彼は思い出します。
確かあそこはメンバーが寝泊まりしている辺りじゃなかったか…と。
キャンプファイヤーにしてはどうにも明るすぎるし、そもそも少し前まで大雨だったのだから、薪すら調達できないはず。
そこで彼は、先程の雷を思い出します。
あのお寺の近くに雷が落ちたのでは…と思いました。
そこで身震いします。あの辺りは開けていて、燃えるようなものは何も無かったはず、あのお寺を除いて…。
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すると、そこに残りのメンバーが戻って来ました。全員ずぶ濡れです。
「何でこんな雨の中戻って来たんだ?」と聞くと、「嫌な予感がしたんだ」と言います。
宿のおばあさんに事情を話すと全員無事かを聞かれ、全員戻って来た旨を話すと、「良かったねぇ」と言って少し涙ぐんでいました。
全員、宿のおばあさんの厚意で無料で泊めてもらうことになりました。
もう暗くなっていましたし、お寺に置いて来た重い荷物は明日取りに行くことにしました。
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翌朝、足場がぬかるんでいるのに注意しながら例のお寺まで荷物を取りに行きました。
しかも、地元の男勢までも一緒に。
物々しかったですが、足場のぬかるみや、その他の危険を考えれば頼もしい限りです。
そして例のお寺の場所まで行くと、そのお寺は焼け落ちていました。
昨日の雷は、やはりこのお寺に落ちていたのです。
テントなどの重い荷物は全て灰になっていましたが、あのままここに留まっていたら自分達が灰になっていたことを考えると、焼けてしまった荷物のことなど考える余裕は無く、みんな顔を青くしていました。
その時、焼け落ちたお寺が更に崩れ、床下に当たる部分が露出しました。
よく見えませんでしたが、『大量の骨』だったように見えました。
地元の人はキャンプメンバーにすぐに戻るように言い、彼らは一部の男勢の先導で宿に戻りました。
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宿に戻り、最初に荷物を取りに戻った彼は、メンバーにもう一度聞きました。
「なぜ、あんな大雨の中を戻って来たのか?」
あの雨ではぬかるんでいるし危険だったろう。そんな危険を冒してまでなぜ戻って来たのか、と。
リーダー格の彼はこう返します。
「夢の中に妙に神々しい人が出てきて、俺達に『今すぐ下山しなさい』って言ったんだ。それも、みんな同じような夢を見たのさ」
それで不気味になって、最小限の荷物だけ持って引き返したそうです。
すると宿のおばあさんはこう言いました。
「神様があんた達を助けてくれたのさ。恐ろしい『人喰い寺』からねぇ」
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おばあさんの話では、昔はあの辺りに集落があったそうで、そのため周辺は開けていたのだそうです。
集落の人間は、あの『人喰い寺』に喰い殺されて全滅したそうです。
もはや残っていまいと思っていたそうですが、その話を知っている人の伝承によって、あの辺りには近付かないようにしていたそうです。
『人喰い寺』の存在を知っている人は少なかったものの、あの近辺が危険であるという言い伝えだけは地元の殆どの人が知っていて、そのため特定のエリアまでしか近付いていなかったのです。
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あの雷は、今だに人を喰おうとしていた『人喰い寺』に対する天罰だったのかもしれません。
そして、床下で見たあの『大量の骨』は、全滅したあの集落の人々の遺骨、あるいは『食べ残し』と言った方が良いのかもしれませんね。