僕の実家には大きな土蔵がありました。
先祖代々伝わって来た、訳の解らない掛け軸や扇子や壺などが、山ほどありました。
ある日、いい加減古いものは処分しようと、家族総出で整理をしました。
出て来る出て来る、もう使い物にならないような花器や、古びた箪笥…。
僕はもう嫌になって、奥の方で探検をしていました。
そして一番奥に、四角い箪笥のようなものがあることに気が付きました。
『何だよ、また箪笥かよ…』
と思いながら近くに行くと、ちょっと感じが違います。
よくよく見ると、どうやら古びた仏壇のようでした。
「と~やん!仏壇があるよ!」
父を呼ぶと、
「そんなアホな」
と言いながら、奥に入って来ました。
そして、
「ほんとに…仏壇だなあ…」
父も、土蔵の奥にひっそりと置かれた仏壇に目を丸くしていました。
「誰の仏壇だろなあ?」
父は首を傾げながら、閉まっていた扉を開けようとしました。
しかし、1センチくらいは開くのですがそれ以上は開かず、手を離すとすぐに閉まってしまいます。
まるで中から引っ張っているようでした。
父も僕も何度かチャレンジしましたが、すぐに嫌になってしまい、そのままにして置きました。
どうせ一日で全部片付くような広さでもなく、またにしようという話になり、この日は作業も終了となりました。
※
疲れもあってか、晩酌の時の父は面白いほど酔っ払っていました。
そして、また仏壇の話になりました。
「ありゃ何だろうなあ?」
家族の誰も知りません。
そして一休みして、
「疲れも取れた今なら開くかも?」
と、よせば良いのに父と僕は懐中電灯片手に、再び土蔵へと行ってみました。
※
昼間とは打って変わって、夜の土蔵は真っ暗で嫌な雰囲気です。
父と僕は、仏壇の扉に手を掛けました。
「せーのっ!」
掛け声と共に、力一杯取っ手を引くと…。
「うわ!」
僕と父は思わずすっ転んでしまいました。
全く抵抗が無く開いたのです。
「何だよ…」
父はぶつぶつ言いながら立ち上がると、仏壇を覗き込みました。
「ゲゲゲゲゲゲゲゲ!!!」
「あああああ!!」
奇妙な鳴き声と、父の悲鳴が一緒に聞こえました。
その時の光景は今でもはっきり覚えています。
仏壇の中から、妙に干からびた爪の伸びた手が二本…。
それは父の頭を抱え込み、仏壇の中に引っ張り込もうとしているようでした。
僕は半泣きになりながら父に飛びつき、一生懸命引っ張りました。
暫く格闘が続いた後、急に引っ張る力が無くなり、僕と父はまたもや尻餅をついてしまいました。
そして脇目も降らずに家に逃げ帰り、その日は一睡も出来ませんでした。
夜遅くまで、あの
「ゲゲゲゲゲゲ!!!!」
という聞いたこともない声が響いていました。
※
次の日、恐る恐る家族全員で仏壇を覗きに行くと、仏壇は扉が全開のままでした。
中には何も入っていませんでした。
ただ、仏壇の扉には内側から引っ掻いたような跡が、幾重にも付いていました。
一体あれは、何だったのでしょうか?