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神社の影と追跡者

まる穴

これは17年前の高校3年の冬、そして2年前の大学生時代の夏に体験した、偶然の怪異が重なった実話である。

——あまりにも理屈を超えた出来事に直面し、私たちはただただ言葉を失った。

大学生の夏期試験前、私は友人AとBと共に、気分転換と称して無人の古い神社へ“肝試し”に出かけた。

小心者の三人は、神官への礼を忘れず、蝋燭を灯して裏手の茂みに順番に赴くという簡易な儀式を決行した。

最初に挑んだB、次にA、そして最後に私——いずれも無事に戻ったはずだった。だが、帰り際、鳥居の前で背後に湧き上がる凄まじい気配を全身に感じた。

一度は振り返るまいと決めたが、好奇心と友情に後押しされ、三人でいっせいに後ろを振り返った。

月明かりに照らされた社殿の間に、黒い水溜りが忽然と出現し、その表面から漆黒の双腕が滑り出した。

細長い頭部が這い出そうとする瞬間、私たちは歓声にも似た悲鳴を上げ、全速力で現場を脱出した。

深夜、自宅に戻った私は、布団の中で三夜連続して同じ夢を見た。

真っ暗な背景に、三本の蝋燭の灯が順に点り、私たちを取り囲むように揺れる炎を見る悪夢だ。

翌日からAとBは立て続けに事故で入院し、「次は自分の番か」という直感に、私は背筋が凍り付いた。

——これは偶然ではない。《何か》が私たちを狙っていた。

大学の講義を終え、AとBの入院先を訪れた私は、二人とも事故直後の状況をうわ言のように語っていた。

夜の神社で感じた「黒い水溜り」の波紋──あの場面が、三人の記憶の中で何度も繰り返されていた。

病室の床や壁には、うっすらと煤のような黒い汚れが残っており、医師たちも「火器や炎の痕跡ではない」と首を傾げていた。

一夜目に見た夢の蝋燭は私たち全員の潜在意識に刻まれ、二夜目、三夜目と灯る順番が変わるごとに、現実世界での異変が起こっていた。

四夜目──私は再び同じ夢を見た。真っ暗な闇の中、三本の蝋燭が立ち並び、二本はすでに炎を宿し、残る一本がゆっくりと灯されようとしていた。

その瞬間、背後から囁くような声が聞こえた。「来い…来い…」と、嗄れた唇が不気味に震えていた。

目を覚ますと、枕元に──見覚えのない小さな紙片が置かれていた。墨で描かれた稲妻のような紋様が、まるで私を呼び寄せるかのように黒々と輝いている。

混乱の中、幼馴染のDが突然私の自室に現れた。深刻な面持ちで、右手に包帯を巻いた弟・Eを伴っていた。

Dは静かに言った。「その紋様は『御霊の結界』を呼び起こすもの。Aたちの事故も、君への呼び声も、その符がきっかけよ」

Eは包帯越しに私の額に手をかざし、小さく呟いた。「今はまだ弱いけれど、君を守る結界を張っておいた。これで追われることはないはずだよ」

弟の掌から放たれる温かな感触に、私の胸にわずかな安堵が広がった。

しかしDは眉間に皺を寄せ、「結界は一時しのぎ。あの神社の裏手には、さらに深い〈まる穴〉が眠っているの」と警告した。

Eもうなずき、「誰かが意図的に符を仕掛けたなら、深層の祀り場へ赴き、真実を暴かねば終わらない」と語った。

三人は改めてあの神社へ向かう決意を固めた。その足取りは覚悟と恐怖が入り混じって、冬の夜気を凍らせるようだった。

深夜の神社は、前回と同じ静寂に包まれていた。

D、E、そして私の三人は、蝋燭の結界で示された地点から裏手へと向かう。

足元は落ち葉と苔に覆われ、月明かりだけが頼りだ。

やがて、朽ちかけた祠の背後に――不自然に抉(えぐ)られた大円形の穴が姿を現した。

それは人一人がようやく腰まで潜れるほどの深さと幅を持ち、縁には古ぼけた石の符(ふ)が何枚も貼り付けられている。

Dが足を止め、小声で囁いた。
「これが〈まる穴〉……長い間、封じられてきた場所よ」

Eは小さく息を吸い込み、地面に両手で符を置きなおす。
「夜明け前のこの時間帯に来られたのは幸いだ。今ならまだ封印の力が弱まっている。」

私は震える声で問いかけた。
「ここから何をすれば、あの呼び声を止められるのか……?」

Dはポケットから小さな袋を取り出し、符を一枚ずつ手に取って示した。
「これを外し、石の祠に納め直すの。符は〈障り〉を留め置くための留め具。逆に言えば、正しい場所に戻せば、邪気は消えるはずよ」

Eが頷き、三人は分担して穴の縁に貼られた符をそっと剥がし始めた。

符を外すたび、微かな痛みのような振動が胸を貫き、呼び声の残響が風に乗って囁く。
「来い……来い……」

私は懐中電灯の光で符の文字を確認しながら祠へと運ぶ。
胸が高鳴り、指先が震えた。

最後の一枚を手にした瞬間、地鳴りのような低い唸りが響き渡った。

穴の底から、かつて見た「黒い手」がゆっくりと這い上がってくる。

Eが咄嗟(とっさ)に体を張り、私たちを押しやった。
「急いで封じよう!」

三人は並んで祠の前に立ち、剥がした符を一枚ずつ収めていく。

符が全て納め直されたと同時に、祠の石蓋(いしぶた)がひとりでに閉じるような轟音が響いた。

そして――

淀んだ空気が一瞬にして晴れ渡り、凍えたような風が止んだ。

辺りを包んでいた邪気は、まるで嘘だったかのように消え去り、月明かりだけが静かに降り注いでいる。

Dが深く息を吐く。
「これで終わった……はずよ」

Eも頷きながら、満面に浮かぶ安堵の笑みを見せた。
「もう、誰も傷つけられない。」

私もふるえる手を胸に当て、小さく呟いた。
「ありがとう……本当に、ありがとう。」

終章:暗闇の向こうへ

封印の儀式を終えた後、私たちは無言のまま神社を後にした。

夜明けの薄明かりが、山間に静かな平穏を取り戻していた。

あの呼び声も、黒い水溜りも、蝋燭の夢すら、全てが過去の幻のように遠ざかっていく。

それでも、深く胸に刻まれた記憶は消えない。

恐怖と友情と――そして、異界を封じた一夜の連帯感。

これから先、何度あの夢を見ても、きっともう怯えはしない。

なぜなら、私は友人と幼馴染と神職見習いに守られ、暗闇を越えてきたのだから。

そして今日からは、誰かが私の灯りを守る番。いつか誰かが呼び声に怯えた時、私は必ずそばにいるだろう。

エピローグ:日常と異界の境界

あれから数年が経ち、私は社会人となった。

日常の喧騒は、あの夜の出来事を遠い記憶へと追いやろうとする。

しかし、心の奥底にはいつもあの蠢く闇と蝋燭の灯りが共にある。

友情の証

大学時代の友人、AとBとは今でも年に一度、夏の終わりに再会する。

三人で集うと、必ずあの神社裏手の話題が出る。

「今度は灯りだけを手向けに行こう」

そんな冗談交じりの約束を交わしては、笑い合う。

あの封印を果たした連帯感こそが、私たちにとっての本当の肝試しだったのかもしれない。

幼馴染の守り

Dは現在、故郷の神社を継ぎ、一族の伝統を守る神職として活躍している。

Eも正式に神職を継承し、分社や地域の小さな祠を支えながら、今日も忌まわしいものが外界へ溢れ出さないよう見張り続けているという。

二人の存在こそが、私たちの「神域」なのだと、私は改めて感じる。

私の役割

封印の夜以来、私は〈まる穴〉の記憶を胸に、誰かが困った時の灯りになりたいと思うようになった。

小さな勇気と友情の灯を掲げ、恐怖に立ち向かう力になりたい。

それが、あの夜に交わした誓いの続きなのだ。

永遠の境界線

〈まる穴〉は、私と異界を隔てる境界線だった。

蝋燭の灯りを頼りに、黒い手の闇を封じたあの日。

暗闇の向こう側には、もう二度と足を踏み入れない。

だが、心のどこかで私は知っている。

不意に闇が蠢き、鼓動が速まるその瞬間こそ、私が灯すべき光があることを。

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